インフルエンサーが生み出す新たなファッション、「本当に作りたい服」をSNSで実現 デザイン類似で「炎上」リスク、ファッションローの知識も必要に
インフルエンサーのブランドが活気づく背景には、個人が簡単にネット通販を始められるサービスの普及もある。主に個人向けのネットショップの開設を支援するBASEでは2023年6月末にショップの開設数が累計200万を超えた。BASEの山村兼司最高執行責任者(COO)は「個人が世界観を打ち出して、共感できたファンが購入している」と分析する。 経済産業省の調査によると、2022年の日本の電子商取引(EC)化率は約9%で、市場の伸びしろは大きい。商品化するまでの過程をSNSで紹介することで注目を集めて売り切るなど、従来のアパレル業界にはない売り方も展開されている。山村COOは「就職せず、ネットショップで成功するという選択肢も今後あり得る。個人発のブランドはまだまだ増える」と予測する。 ▽模倣に対する業界の意識は高くない 弁護士でありながら、ファッションエディターの顔を持つ海老沢美幸さん(48)は「個人の力が強いということは、個人が法律の問題に直面するリスクが高まっているということだ」と指摘する。海老沢弁護士によると、ファッションはさまざまな文化やデザインを取り入れて発展したもので、「オマージュ」や「インスパイア」といった手法が使われるなどアパレル業界全体として模倣に対する法的意識が高いとは言えないという。
それがSNSの普及で「デザインが似ている」として比較する画像が投稿され、炎上する案件が増えた。インフルエンサーらが模倣に関する法律の知識が不十分なまま、安易に既存商品のデザインをまねしたり、人気商品に似たデザインのものを海外から買い付けたりするといったケースが多いという。 デザインの模倣は、事案によって関係する法律は異なる。 例えば、衣服の形態を模倣した場合、不正競争防止法などが関わる。不正競争防止法では、模倣とは「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」を指し、模倣を生まない対策が必要だ。 具体的には、商品化する前に多くの人の目を通すのが鍵だという。ネット上にはデザインがあふれており、不注意で他人のものが紛れることもある。「あのデザインに似ている」などの意見が集まりやすい。 なぜそのデザインに至ったのかを記録しておくことも必要だ。どういったものからヒントを得たのかの資料を整理し、保管しておく。万が一、他者から指摘があった際に「まねしていない」との反論材料にもなる。「法律上、模倣とは言えないまでも炎上してしまうケースがあり、これらの方策は炎上を防ぐためにも有効だ」という。
ファッション産業に関わる法知識には商標権や意匠権なども含まれ、関連する法分野は「ファッションロー」と呼ばれる。海老沢弁護士は法律問題に直面した場合の相談窓口を立ち上げた。「創造性を発揮するためにも、法律的な知識を身につけてほしい」と呼びかけている。