名豊道路が全線開通したら、静岡県中部は「中京経済圏」に完全に組み込まれるのか? その影響を考える
静岡~浜松までの所要時間
しかし、名豊道路の開通をきっかけに、この温度差が是正される可能性もある。静岡市民にとって、名豊道路は高速道路を使わずにストレスなく名古屋へ行ける重要な幹線となるからだ。 実際、静岡市と浜松市では東名高速や新東名高速を使った場合と、無料の国道1号バイパス群を利用した場合で、所要時間にそれほど大きな差はない。Googleマップで調べると、状況にもよるが差は10~15分程度で、10分弱と表示されることもある。途中にいくつか信号はあるものの、大型トラックが利用できるコンビニもあり、道中の利便性はむしろ高いといえる。 静岡県中部の住民は、こうした道路事情をよく把握している。そのため、名豊道路が開通した後も、浜松市以西への移動には引き続き国道1号を利用し、そのまま国道23号を使う方が自然な流れになるだろう。
30分と引き換えの5450円
現在、静岡市から名古屋市まで高速道路を使うと、所要時間は約2時間30分(約180km)だ。名豊道路が全線開通し、国道1号から乗り入れて全区間無料のルートを利用した場合、所要時間は約3時間と予想される。 一方で、新東名高速の新静岡ICから名古屋高速の明道町ICまで普通車でETCを使う場合の料金は5450円。30~40分の短縮時間を考慮すると、この料金は 「無視できない金額」 といえるだろう。また、静岡市から東京駅まで無料道路のみで移動する場合、所要時間は約4時間10分(約170km)となる。 こうした条件を考えると、名豊道路の全線開通により、静岡県中部と名古屋市が大きく近づくといっても過言ではない。
道路を活用したスタートアップ育成
2024年、静岡県知事に就任した鈴木康友氏の姿勢を改めて見てみよう。 鈴木氏の第一の公約は「スタートアップの育成」だった。この「スタートアップ」という考え方は、静岡県中部の住民にはあまり馴染みがないものだ。 特に静岡市では、新興企業よりも既存企業を重視する傾向が強く、市民の考え方は非常に保守的といえる。しかし、新しい道路を活用してスタートアップを支援する計画が今後出てくる可能性もあるだろう。 実際、中部横断自動車道の静岡~山梨区間が全面開通した際には、甲府市でスタートアップのピッチイベントが行われるなど、道路がもたらす経済効果を見込んだ企画が実施された。 また、沿線地域の地方銀行や信用金庫が物流関連事業に多額の出資をしている例もある。名豊道路でも、同じような現象が起こる可能性は十分にあるだろう。