大河『光る君へ』京都・平安京を舞台に繰り広げられる権謀術策と男女の愛憎。宇治は、平安貴族たちが好んで別荘を構えた「別業の地」
◆詩歌管弦の遊び さらに、「平安の間」には、寝殿造の貴族の邸宅が一部復元されています。 屏風や几帳、燈台、鏡など、豪華な調度が整えられた部屋で、女官と思われる女性2人が囲碁をしている。そんな姿が、等身大の人形を用いて再現されているのです。 なぜ囲碁を?と思った人もいるかもしれません。 空蝉が碁を打っている様子を光源氏が垣間見る場面など、実は『源氏物語』にも、囲碁がしばしば登場します。このことからもわかるように、平安時代の囲碁は、知的な遊びとして、男女を問わず人気だったのです。 囲碁のほか、漢詩や和歌をつくり、琴(きん)や琵琶、笛などの楽器を演奏する、いわゆる「詩歌管弦の遊び」も盛んに行われていました。 『源氏物語』でも、光源氏をはじめとする登場人物が、祝いの宴などで「管弦の遊び」に興じる場面が度々描かれます。月明りの下、皇族や公卿たちが、得意の楽器を手に合奏を楽しむ……。なんと優雅な光景でしょう。 しかも、それぞれが名人級の腕前で、奏でる音色が家柄や人柄まで物語ったとか。ちなみに、光源氏は琴(七弦琴。演奏が非常に難しく平安中期以降廃れた)の名手という設定です。 『光る君へ』では、まひろが琵琶を奏でるシーンがありましたが、こうした「管弦の遊び」は今後もドラマのなかで折々に登場するのではないでしょうか。 「遊び」には漢詩や和歌をつくることも含まれていますが、現代人の私たちにとっては、ちょっと意外な気もします。平安貴族にとって「遊び」とは、一種のたしなみ、教養の1つだったのでしょう。
◆教養や美意識を身につけるための家庭教師 高い教養を備えていることがその人の魅力に直結していたことを考えると、中宮の父である道長が、娘のために、紫式部のような女性を抜擢したことにも合点がいきます。 中宮付きの女房というと、こまごまとした身の回りのお世話をする人を思い浮かべるかもしれませんが、紫式部の仕事はそうしたことではなく、漢文学について進講するなど、教養や学識を高める手伝いをしていたようです。 いわば、教養や美意識を身につけるための家庭教師といったところ。祖父、父ともに学者であり、歌人・詩人でもあるという環境で育ち、幼少期から学才を発揮していた紫式部には、うってつけの仕事だったのではないでしょうか。 とはいえ紫式部自身は、当初、宮仕えに嫌悪感を抱いていたようです。このあたり、ドラマ『光る君へ』では、どのように描かれるのでしょうか。愛しい道長のために、渋々大役を引き受けるのか――。今後の展開が楽しみです。
SUMIKO KAJIYAMA
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