料理研究家・上田淳子がハマる「老いにフィットするレシピを考える」楽しさ。【白央篤司が聞く「50歳からの食べ方のシフトチェンジ」vol.1】
年齢を重ねると、毎日の食について、若いときには想像もしなかった「身体の抵抗」に唖然とすることがあります。50歳を超えるあたりがどうやら「シフトチェンジ」の頃合いなのでは?『台所をひらく』などの著書で知られるフードライターでコラムニストの白央篤司さんが「食べ方のシフトチェンジ」の達人に聞くシリーズ第1回は、料理研究家の上田淳子さんの登場です。
年齢に応じた食生活のメンテナンス問題
歳を重ねるうち、好きな食べものが変わる、あるいは苦手なものや食べにくいものができてくる……なんてこと、思い当る方多いのでは? 食べられる量も変わってくるし、作るモチベーションが保てなくなったと悩む人も。 「料理して、食べていく」ことのシフトチェンジに、みなさんはどう向き合われているだろうか。 近年、「加齢と食」をテーマに据えたレシピ本の出版が続いている。料理研究家の上田淳子さんが著した『55歳からの新しい食卓』(Gakken 2022年)は、「食べるのは大好き」でずっと生きてきた著者が「量が食べられなくなった」「かたいものが苦手になってきた」といった変化に戸惑い、もどかしい思いに駆られていることを冒頭で正直に告白しているのが印象的だ。 「まだまだシニアではない55歳という年齢は、老いの対策を考えるには半端な年齢。食に悩みを抱えてない人もいますが、変化に不安を感じている人も結構いらして、どうしたらいいかと悩んでいる人に響いたと思いますね。『分かる!』という共感の声がすごく多かったし、増刷にもなりました」 (Gakkenの担当編集者、小林弘美さん談) 年齢に応じた食生活のメンテナンス問題は、ある程度生きてくれば誰しもが抱えるもの。おざなりにしてしまうと生活の質や日常の満足度も下がりやすい。このあたりのことを上田淳子さんはどう考え、どう対処したのか、話をうかがった。
まずは「量と脂」問題
──食べることに関してご自身の変化を意識したのは、いつぐらいでしたか。 50代に入って明らかに「違ってきたな」と。はっきりと感じたのは「量と脂」に関してですね。昔は大好きなものいっぱい食べれば「ただ幸せ~」だったのに、今は「晩ごはんまでにお腹空くかな……」なんて心配になってしまう。フランス料理なんて大好きで連日でもよかったのが、今やきょう行ったら明日はいいかな、となってしまって(笑)。 ──それはやっぱり……ショックでしたでしょうか? ショックもありますけど、「しょうがないか」と思えました。これまでの不調って「治る」ものだったけど、加齢の変化は治るものではない。そう自分に言い聞かせるところからのスタートでしたね。じゃあ、どうするか。自分における変化とうまくつきあっていく他ない。おいしく食べることをあきらめたくないから。 ──具体的にはどういうことから始めたのでしょうか。 55歳の頃って、ちょうど子どもふたりが独立する時期にも重なっていました。食べ盛りの男子用に揚げものなどもよくして、量もたくさん作って。子ども優先でずっと来ていたごはん作りから、「自分の体の声を聴く」を最優先にして、あれこれと微調整することから始めていったんです。 50代半ばって、やっぱりまだパスタも中華もお肉も食べたいと思うんですよ。ただ、これまでどおりの作り方だとちょっと体がつらくもなりがち。だったら本来、鶏もも肉で作るものは胸肉にしてみるとか、噛みやすいよう細く切るなり、叩くなりしてみる。飲み込みにくさを感じたら、とろみをつけてみるとかね。 ──なるほど、そういう試みのあれこれが「微調整」なんですね。 「今の自分にとって心地よい料理とはなんだろう?」と考えてみる。私は歯が悪いわけではないのですが、顎関節症を患ったことがあり、噛めない大変さを身にしみて知ることもできました。たとえば野菜だと、れんこんってわりと噛みにくい。でも、ちょっとした切り方ひとつで噛みやすくできるんです。