料理研究家・上田淳子がハマる「老いにフィットするレシピを考える」楽しさ。【白央篤司が聞く「50歳からの食べ方のシフトチェンジ」vol.1】
「おいしいハンバーグ」は年齢によって違う
──『55歳からの新しい食卓』を出版されて、反響はいかがでしたか。 印象的だったのが、「こういう食事でもいいんじゃない、と親に伝えたくて買いました」という方が結構いらしたんです。ほら、この世代から上の方々は「ちゃんと作らなくては」という意識が強くて、手を抜かない、抜けない人たちが多いのかもしれません。また、「今まで自分が作ってきたものがおいしいと思えなくなり、悩んでいた」という人も。 ──自分にとっての「おいしい」あるいは「食べやすい」が知らずのうちに変わってきていることを、なかなか自分では気づけないこともある。 そうですね。微調整といえば、食べる量のこともあります。お肉100gを1回で食べていたのが、重くなったので70gにしたとして、少なくなった分の栄養バランスはどうするのか? たんぱく質の減った分は牛乳でとるか、あるいは豆腐や卵を副菜にするか、といったことも考えたい。私は今、「自分の老いにフィットするレシピを考える」ことがとても楽しいんです。 例えば、「今の私がおいしいと思うハンバーグってどんなものだろう」と考える。これまでの人生で、いろんなハンバーグのレシピを考えてきました。1歳児用のハンバーグ、食べ盛りの子ども向けのハンバーグ、丁寧に作りたいときのハンバーグ、手を抜きたいときのハンバーグ……1つの料理でもいろんなレシピがある。年齢と共に、提供できるレシピの幅も広がってきました。 ──料理研究家としての年輪というか、齢(よわい)がレシピに厚みをもたらしてくれているわけですね。 年をとるのも悪くないな、と思えます。年を重ねるとできないことも増えるかわりに、新たに好きなものが生まれてくる楽しさもあると私は思っています。大豆の煮たのや切り干し大根の煮ものなど、年々しみじみおいしいなあって。若い頃は見えなかったものが見えて、感じられてもくる。そこの良さも噛みしめたいですね。
「エチュベ」が広げる新しい食卓
『55歳からの新しい食卓』では、1章を割いてエチュベという調理法を軸とするレシピが紹介される。エチュベは少量の水分で野菜を蒸し煮にするフランス料理の技法だが、上田さんは動物性たんぱく質も加えて、バランスよく1品ができるように工夫している。 自分も作ってみたが、手軽なのに加え、野菜の甘みがしっかりと引き出され、うま味が全体に回りやすいのが魅力だった。 「少量の水分と油脂で蒸し上げるのがコツ。油脂を加えることで素材にコクがつくんです」と上田さん。レシピを繰りかえすうちコツをつかめて、今ではあまり食材でエチュベ1品を作れるようにもなり、「新しい食卓」の世界が少し、広がった。 上田さんの「おいしく食べることをあきらめたくない」という言葉が思い出される。歳を重ねていけば気力の萎える日もあるだろう。あきらめない、という気持ちをこの先も私はキープしていけるだろうか。 次回は『60代ひとり暮らし 瀬尾幸子さんのがんばらない食べ方』を著した瀬尾幸子さんに話をうかがう。