佃煮製造の老舗企業、倒産を引き寄せた「こだわり」
宇治管理(旧商号=野村佃煮)は、1931年(昭6)3月創業の佃煮(つくだに)製造業者。煮豆や佃煮、総菜、おせち料理などの製造販売を手がけ、百貨店や食品スーパー、食品商社などを販路に2012年3月期の売上高は約50億5100万円を計上していた。 【グラフ】倒産件数の推移 しかし、百貨店自体の集客力低下や贈答需要の減退から19年3月期は赤字決算となり、20年以降はコロナ禍の影響で売り上げはさらに減少、赤字決算が続くなど資金繰りが悪化した。周囲からは不採算事業の譲渡など再建案の提示を受けていたが、経営陣は自主再建に固執。長年にわたって得意先や商流の変化はなく、昔ながらの販売方法にこだわり続けた。 不採算店舗の閉鎖やスーパー向け総菜部門のリストラを進めたが、原材料費の高騰なども重なり、自主再建は困難と判断し、24年2月に民事再生手続きにより再建を目指すこととなった。3月にスポンサー企業と事業譲渡契約を締結し、新設会社がブランド名と雇用を引き継ぎ新たなスタートを切った。 一方、野村佃煮は宇治管理に商号変更し、5月7日に再生手続き廃止となり、6月4日に破産開始決定を受けた。 再生手続き開始決定時点の債権者は276人に及び、業績悪化を知りながらも「老舗企業だから大丈夫だろう」と取引を続けた企業もあった。「老舗企業=優良企業」とは限らず、23年度の業歴100年以上の老舗企業の倒産は108件発生している。 取引先が老舗の場合は、老舗バイアスを取り除き、与信管理においては客観的な判断が不可欠といえよう。周囲の提案に耳を傾け早期に事業譲渡などを行っていれば、より多くの雇用を守れただけではなく、私的整理で再建策を見いだせたかもしれない。的確で素早い経営判断の重要性を感じずにはいられない倒産となった。(帝国データバンク情報統括部)