周知進まぬ「キャッチアップ接種」、HPVワクチン“空白の9年間”をメディアは埋められるか
9年間の空白を経て勧奨再開
日本では毎年約1万人が子宮頸がんに罹患し、約2900人が死亡する。20代~30代の若い女性の罹患が増えているのが日本の特徴だ。主に性交渉で感染する。それを防ぐのがHPVワクチン接種である。 日本では2010年から自治体による公費助成が始まり、13年4月からは国による定期接種によって、小学6年~高校1年の女子は全国どこでも無料で接種できるようになった。ところが、接種後に「全身の痛み」「歩行困難」など多様な症状が発生し、新聞やテレビはこぞって「危険な」状況を報じた。そこに冷静な検証と分析はなかったと言える。 こうした動きに乗じるような形で国は同年6月、積極的な接種勧奨を差し控える方針を出した。これ以降、ワクチンのイメージが悪化し、7~8割近くあった接種率が激減し、1%以下に落ちてしまった。 その後、接種と副反応に関する因果関係を否定する研究報告があり、ワクチンの有効性を示す内外の科学的データが出たものの、それらをメディアが報じることはほとんどなかった。なぜ、大手メディアがネガティブな報道に傾き過ぎてしまったかは『フェイクを見抜く』(ウェッジ)を参考にしてほしい。 そして、約9年の空白のあと、22年4月、ようやく積極的な勧奨が再開した。と同時に国は、約9年間の空白の中で接種機会を逃した1997年度~2007年度生まれの女性たちを対象に「3年間に限って、無料で受けられるキャッチアップ接種」という救済措置を講じた。 ところが、メディアの報道が少ないこともあって、その救済措置を知らない女性が多い。そういう中で朝日新聞と毎日新聞がようやく大きな見出しで救済措置を知らせる記事を書いたというわけである。
なぜ、打ち逃してはいけないか
キャッチアップ接種を無料で受けられるメリットは大きい。現在、HPVワクチンにはウイルスの型に応じて、2価、4価、9価がある。2価と4価の接種費用は3回分で約5万円、9価は3回分で約10万円もかかる。3回の接種を立て続けに行うことはできないため、3回分の接種を終えるには半年の時間がいる。 特に高校生の場合、9月に1回目の接種をやっておかないと3月末までに3回分を完了できず、打ち残した分は自己負担となってしまう。 もちろん、接種するかしないかは本人の選択のため、接種しない選択もあるだろうが、キャッチアップを知らずに接種機会を逃すのはもったいない。 なぜキャッチアップ接種が重要かといえば、接種する年齢が早いほど子宮頸がんを減らす効果が高いからだ。ワクチン先進国のスウェーデンの調査によると、17歳~30歳までに接種した場合、浸潤性子宮頸がん(浸潤とはがん細胞が周囲の組織を壊しながら拡大すること)にかかるリスクは、接種なしに比べて、53%低下するのに対し、16歳以下で接種した場合は88%も低下することが分かった(The New England Journal of Medicine・2020年10月)。 日本の接種率は他国と比べてあまりにも低すぎる。世界保健機関(WHO)は15歳までのワクチン接種率を「2030年までに90%」という目標を掲げている。国立国際医療研究センター国際医療協力局が世界の子宮頸がんやワクチン接種の状況などを分かりやすく解説したニュースレター(特集「子宮頸がんのない未来をつくる」23年3月発行)によると、21年時点の接種率は、メキシコ、エクアドル、ポルトガル、ノルウェー、マレーシア、カナダ、デンマーク、豪州、英国、韓国など約30カ国が60%を超えているのに対し、日本は少なすぎて図表の統計に数字が出てこないほど低い。