周知進まぬ「キャッチアップ接種」、HPVワクチン“空白の9年間”をメディアは埋められるか
子宮頸がんなどを予防するHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの接種機会を逃した世代の「キャッチアップ接種」が無料で受けられる期限が9月末に迫っている。これまでネガティブな記事を発信し続けてきた大手新聞もようやく重要性を伝える記事を載せ始めた。 【写真】HPVワクチンを肯定的に報道するようになった新聞 ただ、いまなお対象世代の半分以上は「キャッチアップ接種」を知らない。このままだと世界から見て、日本だけが子宮頸がん大国になることが危惧される。
ワクチン接種呼び掛ける記事
朝日新聞は8月7日付け朝刊(医療面)で「HPVワクチン救済接種 低迷。対象の48.5%『制度知らない』全額公費、迫る期限」との見出しで、HPVワクチン接種を呼び掛ける記事を載せた。これまでHPVワクチンに関する朝日新聞の記事はどちらかと言えば、ネガティブな記事が多かった。しかし、この記事はワクチン反対派のコメントも載らず、積極的にワクチン接種を呼び掛ける記事だ。 識者として記事に載った東京医科大学の岩田敏・兼任教授(微生物学)のコメントも「性交渉を経験している人でもワクチン接種には一定の効果がある。一般的なワクチンに見られる腫れや痛みといった副反応はあるが、HPVワクチン特有のリスクは確認されていない」と肯定的な内容であり、ワクチン接種を全面的に後押しするトーンだ。 奇しくも、同じ7日付け朝刊で毎日新聞(くらし面)も「当事者知らぬまま迫る期限 HPVワクチンキャッチアップ接種」との見出しで接種を呼び掛ける記事を載せた。前文では、「(キャッチアップ)制度を国に要望した当事者らは『知らないまま(接種)機会を再び逃してほしくない』と危機感を強めている」といった言葉を紹介し、接種に対して全面的に肯定する内容だ。毎日新聞の記事にも反対派の学者や弁護士のコメントは出てこない。 逆に、「欧米などの研究では健康被害と接種との明確な因果関係は確認されていない」と書き、さらに名古屋市が行った約3万人の調査でも、「関節やからだが痛む」など日常生活に支障がある症状が出る割合に接種の有無で有意な差は認められなかったと記者の言葉で書いた。 この両紙は、以前はワクチン接種に批判的な記事が多かった。それだけに風向きはワクチン接種に肯定的な方向に変わったという印象を与えた。これはメディアにおける大変化である。 なぜなら、このキャッチアップ接種を必要とさせた一端がメディアにあるからだ。