【視点】存在が「希望」となるリーダーを
事実上、次期首相を決める自民党総裁選は9月12日告示、27日投開票の日程が決まった。現時点で11人の名前が取り沙汰される混戦だ。多士済々とも言えるが、誰が当選するにせよ、内憂外患の難しいかじ取りを迫られる。 日本が直面する最大の課題は経済の低迷だ。特に中小企業に活力がなく、日本発のイノベーション(技術革新)が生まれない状況が長期にわたって続く。個人消費の低迷で売り上げは伸びず、労働者の実質賃金も頭打ちだ。強力な起業支援などを通じ、規制や因襲でがんじがらめにされるのではなく、大胆なチャレンジが可能な社会への転換が求められる。 経済力の低下には人口減少も密接に関連している。どの業種も人手不足が常態化しているが、このまま少子高齢化の傾向が続けば、将来的に人材の枯渇はさらに深刻化する。子どもを持たない国民が増え、子育てが通常の営みではなくなりつつある風潮の中、次代のリーダーは社会の崩壊を食い止める重い責務を担う。 安全保障問題も焦眉の急だ。隣の超大国・中国は国際法を無視した強引な領土拡張政策を進め、八重山周辺がいつ南シナ海のような無法地帯になるか分からない。先島諸島で、第二次大戦の「疎開」を彷彿(ほうふつ)とさせる住民避難計画も現実味を帯びる時代になった。ロシアのウクライナ侵攻も長期化している。 不安定な国際社会の中、自衛隊の最高指揮官でもある首相には、領土と国民の生命、財産を守る覚悟が問われる。 だが、政策通であるだけで指導者は務まらないのも現実だ。周囲を心服させる人望や、困難を排して公約を推進する実行力が必要である。さらに首相ともなれば、その存在自体が希望であり、一言一句が国民にとっての指針となるようなカリスマ性も求められる。 そのような指導者として米国でよく引き合いに出されるのは、第二次大戦を指導したルーズベルト大統領や、ニューフロンティアと呼ばれる政策を掲げたケネディ大統領だが、日本にそのような政治家がいるかどうか。 政策も定かでないユーチューバーがブームに乗って国会議員に当選してしまうような世情だけに、日本では一歩間違うと、選挙がただの人気投票と化してしまう恐れもある。 特に今回の自民党総裁選に目を向けると、次期首相のもとで衆院が解散されることがほぼ確実な情勢だ。自民党の国会議員たちは「選挙の顔」を求めている。果たして政策本位の総裁選が行われるのか、国民も厳しく見極めなくてはならない。 総裁選で最初に立候補を表明したのは小林鷹之前経済安全保障担当相で、49歳の若さだ。他の顔ぶれを見ると、5回目の立候補となる石破茂元幹事長(67)のようなベテランもいる。 主要派閥の解消で、大本命なき戦いになった。派閥の力学だけで首相が決まる従来のあり方に比べれば、国民にとって分かりやすい選挙と言えるだろう。