遺す人も、引き継ぐ人も、知っておきたい「相続時精算課税制度」とは、どのような制度なのでしょうか?
「相続時精算課税制度」のメリット
より柔軟な資産移転が可能という点では、「相続時精算課税制度」は有効な選択肢ですが、それぞれの家族構成や財産の種類、その他の事情にもよるため、有効性については一概にどちらともいえません。まずは、「相続時精算課税制度」を選ぶメリットを考えてみましょう。 ■多額の財産移転ができる 相続時精算課税を選択すると、累計で2500万円までの贈与であれば贈与税が発生しません。贈与者からの贈与は相続発生までの全期間にわたるため、一度に贈与しても、分割しても2500万円までは贈与税は非課税となります。毎年110万円の「暦年贈与」と比較すると、短期間での資産移転が可能となります。 なお、2500万円を超えた分については、一律で20%の贈与税が課税されます。贈与税の最大税率が55%であることをふまえると、負担軽減効果はあると考えられます。 ■相続税納税に向けた具体的対策ができる 贈与を行った時点では、受贈者(贈与を受ける人)の税負担が少なく、相続時にまとめて税金を支払うため、相続税を調整することが可能です。特に、将来的に価額が上昇することが予測される財産については、相続が発生した際、贈与時の価額で相続財産額を計算する相続時精算課税制度を利用することで相続税額を減少させる効果も期待できます。 ■生前贈与で「争族」の回避 亡き後のことを「遺言書」で遺すことも大切ですが、「相続時精算課税制度」の利用は生前に特定の人物への財産分与など「遺す人」の意思表示をすることで、確実に実行し見届けることが可能です。他の相続人となるべき人に対しては、きちんと思いを伝えることで、後々のトラブルを回避することにもつながります。
「相続時精算課税制度」のデメリットと注意点
改正により、メリットが多く感じられる「相続時精算課税制度」ですが、制度そのものの手間や注意点については、これまで同様に慎重に検討する必要があります。デメリットや注意点は以下の通りです。 ■一度選択すると取り消せない 相続時精算課税制度を利用する場合、税務署に「相続時精算課税選択届出書」と添付資料を提出する必要があります。選択後は、その年以降の贈与すべてが制度の対象となり、最終的には、相続時に税金が課されます。相続時精算課税制度は一度選択すると取り消しができません。「やはり暦年贈与がよかった」と思っても戻すことができないため、慎重に検討する必要があります。 ■小規模宅地等の特例が使えなくなる 小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たすと土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。相続時精算課税制度を利用して、土地を贈与した場合には、贈与された土地に特例は適用されません。制度を利用するかどうかの選択とともに、何を贈与するかについても検討する必要があります。 ■価額が変動する資産については、慎重な検討が必要 相続時精算課税制度を利用した場合、相続発生時に算出する相続税は、贈与時の価額を基準に相続財産に加算されます。将来的に価額が上昇する資産についてはメリットとなり得ますが、価額が変動する資産については予測できないため、想定外に相続税負担が重くなることも考えられます。 ■贈与の合計が相続税の基礎控除を超える場合の負担 相続財産と贈与財産の合計が基礎控除を超えると、その超過部分に相続税が課税されます。このため、相続財産の全体額をしっかりと把握し、計画的に贈与を行う必要があります。