自宅庭の木が隣家を直撃して屋根破損…"予測不能な強風"でも賠償を命じる裁判所の"ちょっと怖い判断基準"
今、大阪市が公園の木や街路樹を伐採して、自然保護の立場から反対運動も起きており、社会問題になっています。大きな樹木があったほうが街並みは綺麗だと思いますが、人口が密集している都市部で、木が倒れて人の生命・身体に危害が加えられると、所有者である大阪市が責任を負うことになります。今のような異常気象のもとでは、大阪市のリスクとコストの考えは、弁護士の立場から見れば正解だと思います。民家の場合も特に隣家に接していたり、道沿いにある木については手当てが必要でしょう。 ■ゴルフ場の鉄柱倒壊はどう解決したか 2019年に千葉県市原市で、台風により、ゴルフ練習場のネットを支える鉄柱が倒れ近隣家屋に被害を及ぼした事件は、マスコミでも大きく取り上げられました。ゴルフ練習場の側の最初の弁護士が「賠償しない」と言ったために炎上もしました。 その後この案件は私が代理人を引き継いで、被害者が非常に多数だったため、裁判所による調停ではなく、千葉県弁護士会の災害ADR(裁判外紛争解決手続き)を申し立てたので、1年という短期間で解決しました。 裁判なら、被害者に平日の何月何日に裁判所に来なさいとなる。でも、被害者のみなさんは、お仕事もあり裁判所は遠い。千葉県弁護士会は、被害住民が暮らす地域の公民館を土曜日に借りて、手続きを進めてくれました。被害の大きさもさまざまであったために大勢の弁護士、調停斡旋人がつき、公正な和解斡旋案を出してくれたので、結局、弁護士を立てて争った被害者はおらず、短期間で全員と和解ができました。 福島原発事故の際のADRが多くの慰謝料基準を作っていたので、この事案でも斡旋人は和解案の参考にしていました。自然災害は誰が悪いわけでもない。でも損害があるなら誰かが負担しなければならない。そのようなときこそADRが機能すると実感しました。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年11月29日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 秋野 卓生(あきの・たくお) 匠総合法律事務所 東京事務所 代表社員弁護士 第二東京弁護士会所属。専門は、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する企業法務。著書に『住宅会社のブランド価値向上のためのクレーム対応術─10のポイント』など多数。 ----------
匠総合法律事務所 東京事務所 代表社員弁護士 秋野 卓生 構成=桑原和久