ここ数年でも屈指の傑作…King Gnuの「ねっこ」が紡ぐ神木隆之介”鉄平”の生き様とは?『海に眠るダイヤモンド』考察
22日の放送で完結を迎えた日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)。1955年からの石炭産業で躍進した長崎県・端島と、現代の東京を舞台にした壮大な物語である本作は、多くの人を感動を渦に巻き込んだ。傑作と呼び声高い本作の魅力を改めて語りたい。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】 【写真】あの感動の名シーンをもう一度…貴重な未公開写真はこちら。ドラマ『海に眠るダイヤモンド』劇中カット一覧
ここ数年の中でも指折りの傑作
この1年、いや、ここ数年の中でも指折りの傑作と言ってもいいのではないだろうか。脚本家の野木亜紀子が、『アンナチュラル』(2018、TBS系)、『MIU404』(2020、同局)、『ラストマイル』(2024)でタッグを組んだプロデューサーの新井順子、監督の塚原あゆ子とともに紡いだ約70年にわたる壮大な物語がついに幕を閉じた。 2018年、東京の歌舞伎町で荒れた生活を送っていたホストの玲央(神木隆之介)。そんな彼の前に突如現れ、「人生、変えたくないか?」と問うたのは謎の女社長・いづみ(宮本信子)だったー。 当初、玲央は金払いのいい彼女を太客にするつもりで近づき、誘われるがまま長崎を訪れる。2人はフェリーに乗り込むが、廃墟となった“軍艦島”こと端島を前に泣き崩れるいづみ。 本作は、そこからいづみが端島で過ごした青春時代を回顧するとともに、彼女の初恋の人である鉄平(神木隆之介/二役)の日記を通して知る彼の生き様が、玲央に影響を与える構成となっていた。その構成は言わずもがな、物語のスケール感、キャストの豪華さからも日本版『タイタニック』と呼びたくなる。
玲央「心の底から願ってみたい」 端島の輝きを羨む現代人
何より没入感を与えてくれたのは、大掛かりなセットとVFX技術で再現された活気溢れる端島の姿。そしてビジュアル面もさることながら、当時の資料や元島民への聞き取りなどに基づいて忠実に描かれた人々の暮らしだ。 当時、炭鉱で栄えた端島には新宿駅ほどの広さに約5000人もの人々が集まって暮らしていた。そのほとんどを占めていた鉱員の給料は危険を伴う仕事ゆえに高く、彼らはよく働き、よく遊ぶ。これから日本はどんどん良くなるという希望もあり、外勤として鉱員たちをまとめる鉄平の目はキラキラと輝いていた。 対して、玲央の目に光はない。父親の名前も顔も知らずに育ち、ホストの世界で騙し騙されながら生きてきた玲央。そんな彼の「俺、もっとこう、思いっきり笑って、誰かのために泣いたり、幸せになってほしいって祈ったり、石炭が出てきてほしいって、心の底から願ってみたいんですよ」という台詞が印象的だった。それはきっと、現代を生きる誰もがどこかで願っていること。 本当はみんなが幸せになれる道を探れたらいい。だけど、そんな余裕なんてないというのが多くの人の本音ではないだろうか。税金や物の値段ばかりが上がり、働けど働けど楽にならず、世界全体がどんどん不安定になって、再び戦争の時代に突入するのではないかという不安もある。だから、つい自分さえ良ければいいという思考に陥ってしまうけれど、「生きてて楽しいんすか?」と聞かれたら正直自信がない。