ここ数年でも屈指の傑作…King Gnuの「ねっこ」が紡ぐ神木隆之介”鉄平”の生き様とは?『海に眠るダイヤモンド』考察
玲央は誰のことも他人に思えなくなった世界へと旅立つ――。
そんな鉄平の人生に影響を与えてきたのは周囲の人間だ。戦争で3人の子供を失った一平(國村隼)は、辰雄(沢村一樹)に対して「あいつの子供は戦争で一人も死ななかった」という複雑な感情を抱くこともあった。それでも、母親が出ていき、辰雄との2人だけの生活に孤独を感じていた賢将(清水尋也)を自分の息子同然のように見守り続けた一平。 百合子(土屋太鳳)は子供の頃、朝子のいたずらをきっかけに母と姉と本島へ出かけることになり、そこで原爆の被害に巻き込まれた。その行き場のない怒りを持て余しながらも、朝子に決して真実を打ち明けなかった百合子。 一平が体現する「一島一家」の精神や、百合子が母から教えられ、守ってきた「隣人愛」の精神に触れてきた鉄平の生き様が、朝子と家族の幸せを本人たちも知らないところで守り続けていたのだ。 本作はそのように至るところで、反戦へのメッセージが込められていた。進平がリナを守るためとはいえ、小鉄(若林時英)に迷いなく銃口を向けられたのも彼が戦争を経験しているからとも言える。 もちろん、そうしなければリナも進平も殺されていたかもしれない。だけど、それを仕方がなかったと言えてしまうのは小鉄のことを何も知らないからだ。彼がどんな人生を歩んできたのか、私たちは知らない。 しかし、少なからず小鉄には、彼の代わりに仇を討とうとする兄貴分がいた。鉄平と小鉄で、名前が似ているのは何の因果か。誰もが誰かの大切な人であることを私たちは忘れがちだ。 それを忘れず、つねに他人を気にかけていたのが鉄平だった。その鉄平を愛したいづみが「いつ死ねるんだろう」と思いながら生きていた玲央に堪らず声をかけた。 そして、いづみを通して鉄平の生き様に触れた玲央は、誰のことも他人に思えなくなった世界へと旅立っていく。彼らのように生きてみたい。この今日という日がいつか誰かの人生を輝かせるダイヤモンドとなるように。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子