「経済的な自立は譲れない!」と葛藤。自分の気持ちがコントロールできなくなった育休中。たどり着いた「ワーママとしての生き方」とは
負の感情を貯めこむ前に、その都度リセットしてくれる――夫との出会いで初めて満たされた心
そんなゆうさんですから、30歳の時に迎えた結婚は、自立した2人の大人が共に生きる約束でこそあれ、生活を大きく変えるものではなかったといいます。 「夫は自らにストイックな一方で、他人に対してはとても柔軟。。トライアスロンを趣味にするような精神的なタフさと、レジリエンス(困難やストレスに対してしなやかに立ち直り、精神的健康を維持する能力)を持つ人です。そんな彼の臨機応変さや人間性もあって、家のことはお互いに必要な役割をやればいい、という夫婦の形が自然に出来上がりましたね」。 さらにこの結婚はキャリアをダウンさせるどころか、ゆうさんの内面にいい変化を生んだようで――。 「20代の頃は、自信がなかったゆえの恋愛体質とでも言いますか……常に相手はいるものの、深い信頼関係をじっくり育むようなことがうまくできませんでした。仕事もプライベートも一生懸命なのに、やればやるほど空回り。焦燥感をずっと抱えていたような気がします。ところが夫との出会いで、初めて心が満たされるような感覚を得ることができました。 それまでの自分は、“怒りのスタンプカード”にモヤモヤやイライラのポイントを一つずつ貯め込んで、最後に大爆発!ということが多かったんです。でも夫は、私がカードにスタンプを押そうとするとその都度向き合い、ネガティブな気持ちを丁寧にリセットしてくれました。そんな彼の努力が私の心を落ち着かせてくれたのだと思います」。 感情の絡まりをその都度ほぐし、信頼関係を編み直す――それを土台に、結婚後も「経済的自立」を譲ることなくバリバリ働くことができたゆうさん。新たに生まれた小さな家族は、そんなカタチで始まりました。
人生迷路に突入した初めての出産。あらゆる理想をつなぎ合わせて行動もベクトルもちぐはぐに
夫との良好な関係を構築していたゆうさんでしたが、そこに揺らぎが生まれたのは、結婚から2年後。長男の出産という出来事でした。 「出産した私にとって一番の衝撃は、『自分が経済的な自立を失った』という現実でした。出産前は、いわゆる夫婦別会計。『住居費は夫で、食費は私』というように科目を分担し、残ったお金は各自自由に使っていました。ところが、育児休暇中の私の収入は激減。当初の分担だと、産休中の収入では私の担当科目分が賄えなくなったんです」と、ゆうさんは当時を振り返ります。 「育児休暇は1年半。収入減は一時的なことだと、頭ではわかっていました。『これからは、夫婦別会計ではなく収入を合算した家計管理に変更しよう』と、夫と話し合うこともできました。それでもやっぱり、自分自身が大事にしてきたものが損なわれたような気がして……急に劣等感を抱き始めたんですよね。ものすごく悲しくなって、気持ちが折れそうになったことを覚えています」。 そんなゆうさんですから、育休明けは仕事復帰をしてキャリアを継続することに微塵も迷いはなかったのだそう。それでも、育休の真っ最中は迷子のような感覚に陥ったのだとか。 「出産を経ると、バリキャリコース・ゆるキャリコース・専業主婦コース……と、生き方の岐路に立ちますよね。私自身は迷うことなくキャリアの継続を選んできたし、育休後もその道を歩むと決めていました。ところが、その隣に横たわる選択肢を初めてじっくり眺める機会を得たことで、そちらの良さもわかってしまった。『仕事は絶対に辞めたくないけれど、時間をかけて隅から隅まで手料理が並んだ食卓も捨てがたいよね』――と、それぞれの良さをすべて手に入れたい思いに駆られてしまったんです。 その結果、突然パン教室に通ってパン生地をこねてみたり、勢いに任せて使い道もはっきりしない資格を取ったり……。血迷って、情報や誰かの価値観に中途半端に振り回されていた時期でした」。