野球指導者が悩む“保護者の苦情”は「ほぼゼロ」 絶大効果もたらす“定期配布物”の中身
“なんでできねぇんだよ!”と怒鳴るのは「指導力不足のアピールと同じ」
活動する宇都宮市は古くから野球熱が高く、現在も40チーム以上が活動する激戦区だ。夏の「小学生の甲子園」(全日本学童大会マクドナルド・トーナメント)は、1981年の第1回大会3位の姿川第一クラブをはじめ、10チーム近くが出場実績を持つ。横川中央は2019年に同大会初出場を果たしている。 「当時はまだ7イニング制でしたけど、子どもたちには『7回が終わって1点多く取れていればいいんだよ』と。そういうスタンスは変わりませんし、指示待ちの選手や集団はつくりたくないですね。自分から考えて動く習慣がある選手は、たとえば守備の一歩目でも速さが違うと思います」 小・中・高に社会人軟式まで、地元の栃木でプレーした堀野監督が、学童チームの指揮官になったのは11年前。学生時代に経験した、徹底的な管理野球への反発もあり、当初から選手主体の野球を志しているという。 「今でも試合中に『教えただろ、なんでできねぇんだよ!』と怒鳴る指導者がよくいますけど、私にはありえません。『自分はちゃんと教えられていない!』とアピールしているようなものですから。その代わり、子どもに『10』のことを言ったら『9』は伝わってほしいと思っているので、使う言葉や言うタイミング、表情や態度にも気をつけています」
学区制の“シバリ”が解け…先駆的な指導者の下に選手が自ずと集まる時代へ
活動は火・木・金の放課後と土日。時には非効率的とわかっていても、練習のグループ分けや順番、ルールまで選手たちに任せることも。取材日には全員がノーミスで終わるまで続く、ダイヤモンドでのボール回しもあったが、途中での仕切り直しも含めて指揮官は遠巻きに眺めているだけ。そして結局、終えられなかった選手たちを集めて、次のメニューの前にこういう声かけをしていた。 「なんで終わらないのか、みんなも考えてみてください。送球してくる相手や投げる先の相手を声で呼ぶのは難しくない。がんばることは誰でもできることで、それでちょっとずつ、うまくなっていくんでしょ? ボール回しの前のキャッチボールを、ちゃんとやっておくことも大切だよね」 母体の市立横川中央小は、児童が約450人の中規模校。チームには6年生5人を含めて24人が在籍している。市内の40チーム強の多くに漏れず、学校名をそのまま冠しており、人数的にギリギリの活動を強いられている。学区制の“シバリ”が解けるのも時間の問題かもしれず、いずれこういう先駆的な指導者の下に選手が自ずと集まることになると思われる。 〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。JSPO公認コーチ3。
大久保克哉 / Katsuya Okubo