「モンスター住民」の暴走を放置して大後悔…「マンションの管理費」がなぜか高くなってしまう「意外なワケ」
危険な長期修繕計画の4パターン
長期修繕計画は管理組合が作成することになっていますが、たいていの場合は管理会社に作成を委託します。マンション住民が負担する修繕積立金は、長期修繕計画を根拠として金額が決まるため、計画の正確性・妥当性は非常に重要です。が、そのわりに計画の中身をきちんと精査している管理組合は、それほど多くはありません。 これは非常に危険です。なぜなら、実のところ長期修繕計画にはかなりミスが多いからです。ミスの種類は大体次の4パターンに分類できます。 (1)設置されているのに計上されていない設備がある (2)設置されていないのに計上されている設備がある (3)数量や金額が間違っている (4)不要な修繕工事が計上されている 一番多いのは(1)の、設備があるのに計上漏れというパターンです。設備の存在自体が見落とされ、交換やメンテナンス費用などが計画に盛り込まれていない事例は、本当によくあります。設備の多い大規模マンションでは、特に見落としが多く発生しがち。なかでも防災関連設備に関する「抜け」が多い印象ですが、これは管理会社に防災設備の専門家が少ないためでしょう。 逆に、設置されていない設備が計上されているパターンもしょっちゅう見つかります。さくら事務所は外部の専門家という立場で、管理組合から依頼を受けて長期修繕計画のチェックをしていますが、明らかに自家発電設備がなさそうなマンションで、長期修繕計画のなかに消防設備の非常用電源として自家発電設備(1300万円)が計上されており、調査した結果、やっぱり設備はなかったということがありました。
ヒューマンエラーで長期修繕計画に1億円以上の誤差も
なぜこのようなミスが生じたのか、計画の作成元である管理会社に聞き取りをしたところ、このマンションの長期修繕計画を作成するにあたって、別のマンションの計画書に上書きする形で作成しており、元データのマンションにあった項目を消し忘れた結果だということが判明。単純にしてありがちなヒューマンエラーです。 数量や金額の間違いもよくあります。エレベーターが6基あるマンションで、1基あたり2000万円(合計1億2000万円)で交換するはずが、1ケタ間違って200万円となっており、1200万円で予算に組み込まれていたこともありました。誤差は1億円以上です。 不要な費用の計上で1億円を超える誤差が生じた事例もあります。通常、公設の水道メーターは8年ごとに交換する必要がありますが、費用はかかりません。しかし、計画には交換費用が計上されており、それも30年の長期修繕計画だったので全部で3回分、全住戸で交換するものとされていました。 また、20年以上の耐久性を持つ保護コンクリート付きの屋上やベランダについて、12年目の大規模修繕工事で防水工事を行うなど、過剰な修繕工事を盛り込んでいる事例もしばしば見られます。 このように、長期修繕計画には放っておくと取り返しがつかなくなるような致命的ミスも多く混在しています。その多くは管理会社が計画を作成する過程で生じたヒューマンエラーです。管理会社では担当者が計画を作成した後、それをさらに何人もでチェックする体制が敷かれていますが、それでもミスは量産されています。 そのため、管理会社から提出された長期修繕計画はそのまま鵜呑みにせず、一度外部の専門家のチェックを通したほうがいいでしょう。それをしないままに修繕積立金を計算し、工事前になってまったく足りないことが判明したら、住民全員が高額の一時金を課される可能性があります。しかし、すべての人が高額の一時金を簡単に支払えるとは考えにくいため、工事費用が支払えなくなって予定通りの工事ができなくなるかもしれません。 また、できれば修繕積立金には工事費用に加えて、予備費も追加しておくのがおすすめです。住宅設備は常に進化しており、古いマンションの設備は徐々に陳腐化していきます。たとえば、今どきインターネット環境が整っていないマンションを買いたい人はいないでしょう。インターネットが常識になったように、今後もあって当たり前になる設備が出てくる可能性はあります。 電気自動車の充電設備もその一例です。まだ充電設備がないマンションは多いですが、いずれは充電設備がないなら買わないという人が増え、対応しないとマーケットに置いていかれます。設備をアップデートするための予備費は設けておくのが望ましいでしょう。
長嶋 修(不動産コンサルタント)/さくら事務所