「お前を評価できるのはオレだけだ!」落合博満のゲキに荒木雅博が再起…「頑張れ」と言わなかった中日監督時代「悩むのは技術がないからだ」
「お前を評価できるのはオレだけだ!」
その一方で落合の言葉を浴び続ける選手もいる。荒木雅博だ。 「自分を過大評価するやつが多いこの世界で、自分を過小評価する珍しいやつ」 落合は荒木をこう評する。繊細な性格で、心の揺れがプレーに出る。おそらく球界1、2を争うであろうスピードとセンスを持ちながら、プレーに波があることを落合は歯がゆく思っている。そんな荒木に昨季、過酷な挑戦を課した。二塁から遊撃へのコンバート。肩に不安のある選手をあえて、一塁から最も距離のあるポジションに配置転換したのだ。 荒木にとっては文字通り地獄の日々が始まった。6年連続ゴールデン・グラブ賞の名手が自己最多の20失策。プライドをずたずたにされ、悩んだ末に監督を恨んだこともあったという。 「きついっすよ。ここがだめだって断定される。そして、もっとこうやればいいんだって言われる。正直、もう無理だって思ったこともありましたよ」 だが、落合は頑として荒木を遊撃で使い続け、同時に課題を指摘した。 「おまえ、自分がどれだけの選手かわかっているのか。ぽっと出の若造みたいな立ち居振る舞いをするな」 「他のだれでもない。オレができるって言ってるんだ。お前を評価できるのはオレだけだ!」
落合は「頑張れ」とは一度も言わなかった
浅尾と荒木への接し方を見てもわかるように、落合は選手個々の性格、チーム内における立場によって言葉の数や種類を使い分ける。ただその口から発せられる言葉には共通項がある。常に「情」ではなく「理」なのだ。明らかに心が折れかけていた荒木に、落合は「頑張れ」とは一度も言わなかった。その代わりに放った言葉がこれだ。 「心は技術で補える。悩むのは技術がないからだ」 情は人間の心から生まれる。時とともに変化し、終わりもくる。だが物事の理は不変だ。技術とはつまり「理」を体得することに他ならない。落合は相手と向き合う時、情には頼らない。安易に情をかければ、甘えも出ただろう。逃げ道もあったかもしれない。ただ落合の「理」は荒木を逃さなかった。 「もし『頑張れ』と言うような監督だったら僕はショートをやっていないと思う。今はあの人が『だめだ』と言うまでは(遊撃手を)頑張ろうと思える。僕は自分に自信が持てないけど、そんな荒木雅博が納得するぐらいの技術を身につければ、いつか自信を持てると思う。自分の評価をしっかり客観的にできるようになりたい。そういう気持ちにさせたのは監督なんですよね」 感情ではなく、客観的な目で自分を認めてくれる人がいる。それが荒木の心の拠り所になった。これまで自分を信じきれなかった男は落合の言葉を浴び続け、今、自分を信じようと思い始めている。
和田一浩「監督が話してくれるのはいつも理論」
「理」の言葉によってもたらされる選手からの信頼。それを象徴しているのは昨季セ・リーグMVPを獲得した和田一浩だ。ほとんどの選手が監督の言葉に受け身であるのに対し、立場を超えて議論できる唯一の選手だ。 「監督が話してくれるのはいつも理論です。物事には順序があるように、打撃にも順序があるということなんです」 ◆◆◆ ノンフィクション《後編》では和田一浩、そして谷繫元信という中日の大ベテランたちに監督・落合が放ったまさかの言葉から、「オレ流」の根源に迫る――。《後編に続く》
(「Sports Graphic Number More」鈴木忠平 = 文)
【関連記事】
- 【続きを読む】落合博満がトイレでたった一言「いけるか?」谷繫元信を説明なしで途中交代、和田一浩に「無駄が多すぎる」ドラゴンズを支配した“緊迫感の正体”
- 【写真】「若き日の落合博満と信子夫人が豪邸の前で…」当時1億5000万円と報じられた落合邸、見たことある?「現役時代のエグいスイング」「長嶋茂雄との猛練習」など貴重写真を一気に見る(20枚超)
- 【名作】落合博満からいきなり「お前は競争させねえからな」13年前、中日に移籍してきた和田一浩が感じていた“落合の怖ろしさ”
- 【必読】落合博満“夫人”が明かした「睡眠導入剤っていうのかしら…落合も私も毎晩飲んでいるの」11年前、番記者が見た“落合中日が終わる予兆”
- 【写真】「伝説のビール売り子」おのののかが披露していたビキニ姿(全5枚)