動物はいつ動いた? 地球最古動物の“静”のイメージ変える最新研究
地球に生命が現れたのは約40億年前といわれています。今日までの長い年月をかけ、さまざまな生物が誕生と滅亡を繰り返し、進化を遂げてきました。その中で、地球の歴史上、最大規模とみられる大氷河期“スノーボール・アース”(約6.5億年前)終了後に現れた「エディアカラン化石群」の生物は、最古の“動物”とされています。 完全な姿とどめたミイラ化恐竜化石を発見 ── カナダ・アルバータ州 このエディアカラン化石群の初期動物種のほとんどは、海底に定住し、動き回ることができないと考えられてきましたが、先日、新たな可能性を投げかける論文が発表されました。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、報告します。 ----------
恐竜だけではない多様な古生物群
先週「ミイラ化した恐竜化石の発見」を紹介した。恐竜にはやはり多くのヒトを自然にひきつける魅力・魔力でもあるのだろうか。 しかしこの連載を通して、私が繰り返し伝えようとしている一つのメッセージがある。それは長大な生物進化史における謎を探求する際、恐竜だけがその対象となる生物グループでは「ない」という事実だ。化石記録の中には、他にも実にたくさんの興味深いものがいる。 この真理は古生物学者にとって自明の理だろう。これまでに実にさまざまな生物グループの化石発見と研究が行われ続けてきた。一連の発見や研究を通して、「生物とは何なのか?」、地質年代を通した「進化の概要とは?」、こうした人間の存在にも直接かかわるような、一見哲学的な問いかけにも、挑むことができるのではないか。見栄えのする恐竜だけを捜し求めていては、我々の生物 ── そして進化 ── に対するイメージは、かなり偏ったものになるはずだ。 さて今回とりあげる化石生物グループは、今から約6.35億から5.42億年前の間の「エディアカラン紀」と呼ばれる時代ものだ。約46億年前の地球の誕生とともにはじまる先カンブリア代、その最終末期にあたる。魚のような脊椎動物の先祖、そして貝や三葉虫などの海生動物などは、すぐ次の時代に起きた「カンブリア紀の(生物)大爆発」(約5.4―4.7億年前の期間)と呼ばれる、生物進化の現象まで待たねばならない。陸生の大きな木や両生類の直接の先祖に当たる四足をそなえた脊椎動物は、デボン紀後期(約3.8―3.6億年前の期間)に初めて登場した。 エディアカラン紀がはじまる直前まで(約6.5億年前頃)、実は地球は、その長大な歴史上最大級の寒冷化現象に遭遇していた。一説には、地球全体が(赤道地域も含んで)完全に氷に覆われていたとする、いわゆる「スノーボール・アース(Snowball Earth)」と呼ばれる仮説も、地質学者によって提案されている。この極端な寒冷化の期間に、非常に多くの生物種とグループが滅んだはずだと推測される。(注:その多くはバクテリアなどの単細胞生物だったが、化石記録に限りがあるため、その詳細な絶滅のパターンや概要はまだほとんど分かっていない。) このスノーボール・アースの後、温暖化が進み、分厚い地球の表面の氷が溶け出した。そして世界各地の海洋に奇妙な ── それまでの地球史上・生物史上見たこともないような ── 生物達が現れた。 それを我々は「動物(animals)」と呼ぶ。生物分類学上、正式には「動物界(Animalia)」に分類されている。 現生の生物種の中で、動物といえばもちろん我々ヒトを含んだ脊椎動物がいる。その他に昆虫やムカデ、クモなども当然動物だ。水中に目を向ければ、例えば貝、ウニ、イカやタコなど寿司屋でお馴染みの顔ぶれも動物に分類される。食材として使われる動物の組織は、主に発達した筋肉だ。この事実は多くのこうした動物種が、活発に動き回れることも示している。一方、例えばサンゴなどのように一生の大半を海底の岩などにへばりついたまま、定住を行う動物も多くいる。 非常に多数の動物種が硬い殻や骨格を備えているが、ご存知のように全てではない。クラゲやイソギンチャク、スポンジ(海綿動物)のような軟かいボディーを備えた種もたくさん存在する。こうした動物種の中には目や脳、胃袋さえ持たぬグループや種もたくさんいる。それでは生物学上、「動物の定義」とは何だろうか? 生物学の教科書をひも解けば、細胞レベルの構造などにおいて、いくつかの特徴が記されている。しかしここでは一つの重要な点を挙げておきたい。「一個体が多くの細胞によって構成されている」という点だ。バクテリアなどの単細胞生物とは異なる ── いわゆる「多細胞生物」としての側面が、全ての動物種にはみられる。ちなみに「スポンジ」は、現生の動物種の中で最も原始的なグループに分類されている。よく知られている事実だが、一個体のスポンジの体を切り刻んでも、各部分が平気で独立して生き続けられる(たいしたものだ)。分断された細胞が再びくっついて個体としてまとまることも可能だ。(興味のある方はこちらの「OregonMarineBiology」のビデオ参照)。 しかし多細胞生物としての動物の特徴は、他の特徴と比べ、特に化石種の判定時においてカギとなる。後述するように化石記録においても比較的容易に認識し易いからだ。