職場の「信用できない人」にどう接する? 消耗しない人付き合いのコツ
その不信感は、あらゆる言動から相手に伝わる
私たちはこれを、たんに「内心にとどめている相手についての印象」とでも思っています。しかしそれでは済みません。このような考えは、必ずAさんをそのように「していく」ものです。相手のことを「信用のならない人だ」と考えていると、相手は必ず「こちらの信頼を裏切る振る舞い」をするようになります。 これは決して、オカルトではありません。「そんな低予算ではいい仕事はできませんよ」と伝えられたAさんは、必ずその「不信の念」を読み取ります。それを伝えるのが目的のメールですし、人間はバカではありません。Aさんは「この人は予算が低いのを理由に、質の低い仕事で済ませるつもりなのだろう」くらいに考えるでしょう。こうして不信感が相互に高くなっていきます。 「予算が低いのは本当に恐縮です。しかし、最低のラインは守ってもらう必要があります」といったメールをマイルドによこしてくるかもしれません。 こういうメールをもらったら、あなたはどう思うでしょうか? きっと「予算もちゃんとつけないくせに、自分を監視し、トコトン働かせて搾取しようとしている! もともとAはそういう人間だとわかってはいたが......」という暗い気持ちになるのではないでしょうか。このようにして、当初あなたが考えたとおりの「信用のならない振る舞い」をAさんは「してしまう」のです。 どうしたらいいのか、と思われるかもしれません。Aさんのように「信頼できない人間」といっしょに仕事をするのがいけないのかもしれません。 しかし、Aさんはいっしょに働く人の言動次第では、まったく別人のようになっている可能性があります。 「予算があまり確保できない」と告げられても、別の人は「それで大丈夫です! できる限りのことをさせていただきます。いつもありがとうございます」とだけメッセージを送っているとします。 それに対してAさんは「本当に申し訳ない。もう少しなんとかならないか、上司とかけ合います!」と言うかもしれません。どっちが「本当のAさん」なのだろう、と考えるのは、こういう場合にはほとんど意味がありません。人間とは、他人が想定しているとおりに振る舞う生き物だからです。 私は、もしこのようなケースが本当にあったとしたら、あなたはずいぶん損をしていると思います。きっとあなたは、低予算だとしても仕事の手を抜いたりせず、もちろん「最低のライン」など確実に確保するに違いありません。いっぽうでAさんを喜ばせた人にしても、あなたよりずっといい仕事を成し遂げられるというわけでもないかもしれません。 しかしこの場合には、あなたのほうがずっと消耗してしまうのはたしかです。もらえる金額は変わらず、実際に仕事にかける労力もあまり変わらず、ただ人間関係における消耗度だけは格段にひどくなるわけです。これは、予防線をはった結果だと私は思うのです。だから「人を警戒しておく」のをまったくおすすめできないのです。
佐々木正悟(タスクシュート協会理事)