作り手にとって他者の価値観との衝突は、必要なプロセス――映画『本心』製作の裏側
〈AIで人の「心」は再現できるのか?――『本心』原作と映画の共同的ライバル関係〉 から続く 【写真】この記事の写真を見る(4枚) 公開中の映画『本心』では、ポストプロダクション(仕上げ)の段階で、フランスのチームが参加。日本人とフランス人の文化や感性の違いから、様々な議論が交わされたそうです。石井裕也監督に“本心”を聞いてみると……。また、公開前から話題になっていたのが、「三好彩花」役を三吉彩花さんが演じたこと。原作者・平野啓一郎さんに経緯を聞いてみました。 雑誌『文學界』に掲載された平野氏と石井氏の対談をお届けします。(全2回の後編/ 前編を読む ) 文・「文學界」編集部
「ボディタッチ」しない日本人
平野 前編 でも言った通り、小説の方も身体性が大きなテーマです。 前から不思議なんですが、日本人って大人になると、肉親とボディタッチする機会がほとんどないでしょう。僕自身、少年期以降、母親の身体に触れた記憶がほとんどない。でも海外では、ラテン系などに顕著ですが、大人になっても息子が母親とハグするなんて場面をよく見かけます。 『本心』の場合、母親が生きていた時はほとんど身体に触れたことがないのに、いざ目の前にVFとして現れてみると質量をもった母親の肉体にどうしても触れてみたい、しかしバーチャルではその欲望がかなえられない、というジレンマを朔也は抱えています。そのあたりはかなり気にして書きましたが、映画はとくに視覚的に表現しなければいけない分、表現を色々工夫されたんじゃないでしょうか。 石井 その関連でいえば、以前、海外で映画を撮った時にこう言われたことがあります。「登場人物が家族関係でいろいろ悩んでいますが、相手とハグすれば全部解決するじゃないですか」と。でも、ハグして解決しない問題もありますよね。 平野 欧米人の中には、それがありますよね。日本人は、仲直りのハグなんてしないでしょう。 ところで、今回ポストプロダクション(仕上げ)の段階で、フランスのチームと一緒に仕事をされましたね。日本人だけでやる場合と違いを感じる部分はありましたか?