更生を願っていた少年が「闇バイト」強盗事件の関係者!? 武闘派女性刑事とお人好し男性刑事の凸凹バディが川崎の町を守る。警察ヒューマンコメディ【書評】
「これは絶対映像化される!」「ドラマ化してほしい!」と話題の警察ヒューマンコメディをご存じだろうか。それは『下足痕踏んじゃいました』(白泉社)。『そこをなんとか』(白泉社)で知られる、麻生みこと氏の新たなお仕事マンガだ。癒し系の男性刑事と、武闘派でクールな女性刑事というふたりの警察官が繰り広げるこの作品は、コミカルさとシリアスさのバランスが絶妙。上手く進まない捜査に愚痴をこぼしたり、クズな犯人に怒りを燃やしたり、女性警察官として男性社会で生きることに苦労を感じたり。どこまでも人間くさい警察官が凶悪事件に挑む姿から目が離せなくなる。
舞台は官公庁舎からタワマン、飲み屋街、風俗街、競輪・競馬場まで、何でもあるコンビニエントなコンパクトシティ・神奈川県川崎市。交番勤務から川崎東署刑事強行犯係へ異動となった若手警察官・加藤宙(そら)の教育係になったのは、年下だけど上官の女性警察官・工藤花だった。長身で平和主義、お人好しの宙と、小柄だが武闘派、クールな花は、個性豊かなメンバーに囲まれつつ、傷害事件や事務所荒らしなど、川崎エリアで起こるさまざまな事件を追っていく。 この物語の大きな魅力、それは宙の温かい人柄だ。その穏やかさと言ったら、「こんな警察官と出会えたら、世の中の人みんなが良い人になるのでは」と思えてしまうほど。たとえば、管内で遺体が発見され、それが病死だと分かった時、他の刑事が「無駄足か」と落胆するなか、宙は亡くなった人の飼い猫の心配をしたり、「ホントよかったです 犯人がいなくて」と言ってのけたりする。事件関係者に同情してしまうことも少なくなく、花からは叱られてばかり。だけれども、そんな宙の優しさが事件を解決に導くことも!? 宙と花のやりとりは軽快で楽しく、花の秀逸なツッコミには笑えて、凸凹した部分を補いながら事件に立ち向かっていくさまには何だかほっこり癒やされてしまう。
そんなふたりのやりとりを軸とした本作の読み心地はライトだが、中身はしっかり刑事もの。かくいう私は、マンガ・小説問わず、あらゆる警察ものを読み漁るミステリー愛好家だが、この作品には「え、そんな結末?」「そんな犯人?」「そっちが被害者なの?」と、想像とは違う方向に進む事件に驚かされっぱなしだった。特に、最新第5巻では、前巻から続く「闇バイト編」が掲載されていて、かなりタイムリー。老夫婦を狙ったアポ電強盗事件で関係者として浮上した少年は、かつて宙が交番時代に知り合い、夢を応援し更生を願っていた人物。少年は本当に事件に関わっているのか、宙や花とともに、ハラハラしながら、意外な真相を追った。 どうして人は犯罪に手を染めてしまうのだろう。警察官たちの本音を描くと同時に、このマンガでは、事件に関わるすべての人の心理も詳細に描き出すから胸に迫るものがある。事件関係者にはどうしようもないクズも少なくないが、一方で、決して悪い人間ではないはずなのに、今にも闇に飲まれそうな人もいる。環境、状況、何かの引き金、要因がそろえば、誰だって罪を犯す側に回ってしまう。そんな人たちを救うのは何か。人間らしく、愚痴をこぼしながらも、正義を貫こうとする、宙や花のような存在は、被疑者たちを確かに変えていく。 ポップなのにちょっぴりシリアス。人間らしい警察官、犯罪者の姿に、クスッと笑わされ、ときにツッコミを入れずにはいられず、かと思えば、強い憤りを感じさせられたり、切なささえ感じさせられたりする。一度読み始めれば、きっとあなたも虜。2025年1月6日から1週間、JR川崎駅では交通広告が掲示されるほか、神奈川県警とのコラボポスターもあるというから、これから宙と花を目にする機会は増えそう。ああ、映像化してほしいなぁ……。癒し系の男性刑事と武闘派でクールな女性刑事の警察ライフは、これからますます大きな話題を呼ぶこと間違いなしだ。 文=アサトーミナミ