パイナップルから生み出す究極の循環型社会とは? フードリボン社長 宇田悦子さんに聞く
水で繊維を抽出
――機械の開発からのスタートだったのですね。 「最初は海外の機械を仕入れましたが、生産効率や品質に課題がありました。ならば自分たちでつくろうと、文献を読んだり専門家に聞いたりしながら試作したんです。何を使って繊維を取り出すか、金属、化学薬品、酵素といろいろ試しましたが、環境負荷が大きかったり、コストがかさんだりで採用には至りませんでした。最終的に行きついたのが水です」 「木材も切れるウオータージェット切断がヒントになりました。高圧の水の力でパイナップルの葉の繊維を取り出し、乾燥させます。水は繰り返し使うので環境負荷も抑えられます。3年かけて完成させ、2023年春に特許申請しました」 「パイナップルの単繊維は5ミクロンほどの細さで、何十本も集まって1本の繊維になります。初年度の2024年は、沖縄での繊維抽出量の目標は月間150 キロ。10トンを超える葉が必要です。2024年5月に大宜味村に開業したファクトリーでは、パイナップルの葉の繊維抽出機を6台備えています」
インドネシアの王族衣装に採用
――新しくできたファクトリーは研究開発拠点としてだけではなく、体験学習や地域の交流スペースも設けています。 「ファクトリーのテーマは『産業、観光、教育』の3つです。研究開発は、パイナップル繊維の抽出のほか、繊維を取り出すときに出る残渣(ざんさ)の活用や、バイオプラスチックの開発もしています。素材の開発だけでなく、クリエーターやデザイナー、手に職をつけたい方が長期滞在してブランドを創り出せるような設備や環境も整えています」 「地域の課題解決につながる場所にもしたいと考え、シングルマザーの方向けにスキルアップできる研修を計画中です。国内外の教育機関からの研修も受け入れています」 ――2023年にはインドネシアにも進出しました。 「インドネシアはパイナップル生産量が世界2位で、紡績は基幹産業です。農家を含めた30名ほどでパートナー企業をつくり、繊維抽出機を貸し出し、できたパイナップル繊維を私たちが仕入れ、現地のメーカーで生地にします。パートナー企業から、繊維や残渣から作る原料を仕入れる仕組みで、参画した農家の月収は1.5倍となります」 「インドネシアの抱える課題の一つは貧困です。子どもたちは十分な教育を受けられず、地域を潤す事業が育ちにくいという現実があります。農家の収入増だけではなく、教育や地域のインフラ整備など地域全体が抱える課題解決につなげたい。繊維抽出機はその実現のためのツールです」 「インドネシアにはバティックという伝統衣装がありますが、原料の繊維は輸入に頼っています。自国の未利用資源であるパイナップル繊維を使い、伝統衣装にするという取り組みに共感していただき、王族の衣装にも採用されました。インドネシアの他の地域からもオファーをいただき、フィリピンへの進出も検討しています」