異次元円安に「財務省の宇宙人」が「一撃必殺」8兆円介入に踏み切ったワケ…ルーツは21年前の歴史的「円売り」だった
GW中の「二段打ち」
「さすがは『令和のミスター円』。投機筋の意表を巧みに突いて、急激な円安進行を歯止めをかけた」。政府・与党内からは、神田真人財務官(1987年旧大蔵省)をこう持ち上げる声が漏れている。 【写真】円安介入を仕切る「財務省の宇宙人」はこんな人 4月29日に一時、1990年4月以来、34年ぶりの円安水準となる1ドル=160円24銭を付けた円相場を大規模な円買い・ドル売りの「覆面介入」で大幅な円高方向に押し戻したと受け止められているからだ。 神田氏自身は「過度な変動がある場合やファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)から乖離するような場合には適切な行動を取る」と強調するだけで、介入の有無には「ノーコメント」を貫く。だが、市場では29日と5月2日早朝に政府・日銀が「二段打ち」で計8兆円規模の円買い・ドル売りに動いたとの見方が大勢だ。 前回2022年9~10月(約9兆円)に次ぐ大規模な「覆面介入」は日本がゴールデンウィークの連休中の薄商いの中で行われ、円相場は一時、1ドル=151円台前半まで9円近くも急騰した。 財務省のある幹部は「1ドル=160円を超える円安を容認しないとの強いメッセージを市場に送る一方、あえて介入の有無を明らかにせず、投機筋に『いつ再々介入があるか分からない』との疑心暗鬼を広げる戦略だ」(周辺筋)と解説する。
黒澤明の『生きる』を見て
「介入は100%勝つ自信をもってやる」が神田氏の持論。強気の姿勢は二十数年前の為替市場課課長補佐時代の経験で培われたという。 当時は行き過ぎた円高が問題となり、2003年に財務官に就任した溝口善兵衛氏(1968年旧大蔵省、元島根県知事)の下、円売り・ドル買いが繰り返され、その規模は計35兆円に達した。 溝口氏は海外メディアから「ミスタードル」と揶揄されたが、傍で見ていた神田氏は「一撃必殺の大規模介入でなければ、相場の流れを止められない」と実感したという。 実際、神田氏が財務官として指揮した22年10月21日の介入規模は約5兆6000億円と、1日当たりの円買い介入で過去最大だった。今回4月29日の介入も5・5兆円と推定され、同じく歴史的な規模だったようだ。それでも円売り圧力が収まらないと見るや、5月2日に3兆円規模の追撃介入に踏み切ったとみられる。 東大法学部時代に不治の病を患った公務員が市民の望む公園づくりに余命を捧げる黒澤明の名画『生きる』を見て「公務員を志した」という神田氏。庶民の苦境を顧みず、経済危機などを材料に大儲けを企む投機筋は「宿敵」で、22年の介入の際にはマスコミに対して「これは戦争だ」と公言して憚らなかった。