「みじめな同居」よりも「孤独死」? 大傑作ドラマの脚本家が世に送りだす、「名言だらけ」の痛快な物語に迫る
いつかやってくる自分自身の「終活」
また、この小説の中には、主人公やその家族だけでなく、さまざまな高齢者とその人生が描かれている。七十二歳でいち早く高級老人ホームに夫婦で入居するが少し後悔する、英太の弟、昭次夫婦、ほとんど人と話さなくなったと嘆いたのに、英太の一言に突き動かされ、高校時代たしなんでいた落語を再開して人前で演じるまでになった弘田和之など。読んでいれば、「この人の気持ちはよくわかるな」とか「自分もこう生きたい」、逆に「こうはなりたくないな」と自然に考え、大変参考になるはずだ。 そして、読み終わったあと、自分の終活について少し早いかもしれないけど、考えてみた。 実は、すでに財産についてはすべての口座などを記入したものと税理士さんの連絡先も明記して周りに渡してあり、突然、自分に何かあってもそのことだけはわかるようにしてある。 あら、意外と自分ってちゃんとやってるじゃないの、と思っていたのだけど、この本を読み終えたとき新たな気持ちもわいてきた。 それは「親を幸せにしたい」という気持ちだ。いい子ちゃんに聞こえるかもしれないが、本心だからしかたがない。 親を幸せにしたい、将来に不安がないようにしてやりたい。 つまり自分のことはまだ、今の歳では考えつかなかった。 いつか、七十代になった時、自分がどんな終活を考えるだろうか、その時、自分はどんな小説を書くだろうか。 なんだか、とても楽しみになってきた。 内館牧子(うちだて・まきこ)プロフィール 1948年秋田市生まれの東京育ち。武蔵野美術大学卒業後、13年半のOL生活を経て、1988年脚本家としてデビュー。1991年ギャラクシー賞、1993年第1回橋田壽賀子賞(「ひらり」)、1995年文化庁芸術作品賞(「てやんでえッ!!」)、日本作詩大賞入賞(唄:小林旭/腕に虹だけ)、2001年放送文化基金賞(「私の青空」)、2011年第51回モンテカルロテレビ祭テレビフィルム部門最優秀作品賞およびモナコ赤十字賞(「塀の中の中学校」)など受賞多数。 小説家、エッセイストとしても活躍し、2015年刊行の小説『終わった人』は2018年に映画化、続く『すぐ死ぬんだから』『今度生まれたら』『老害の人』は、それぞれNHK・BSで連続ドラマ化、4部作で累計120万部の大ベストセラーになっている。2000年より10年間横綱審議委員を務め、2003年4月、大相撲研究のため東北大学大学院 に入学、2006年3月修了。その後も研究を続けている。
原田 ひ香(作家)