「みじめな同居」よりも「孤独死」? 大傑作ドラマの脚本家が世に送りだす、「名言だらけ」の痛快な物語に迫る
うなずきが止まらない! 名言、金言のオンパレード
だから、主人公、七十五歳の原英太は、七十一歳の妻、礼子に「生きてい間は生きることを考える」と頑として終活を断ってきた。しかし、母のキヨが急逝し墓のカロートに入るのを見て、やっとその気になる。終活をしよう、しかし、自分なりの終活をしよう、と。 そして、考えついた英太の終活は、高校時代の片思いの相手、向山あかねに会って謝罪をする、ということだった。その理由に正直、かなり驚いた。五十代の私には英太の終活は刺激的すぎた。 だけど、それを迎え撃つあかねの話がすごい。それまでの英太のある種の邪心をすべて帳消しにしてさらに凌駕するほどの内容で、痛快とも言える告白だった。加えて、思ってもみなかった英太の過去の所業が炙り出され、思わず、「えーまじか」と叫んでしまった。 しかし、ここまででまだ小説の中盤。 ああ、そうだ、著者、内館牧子さんは平成の大傑作ドラマ『想い出にかわるまで』の脚本家だったのだと改めて思い出される展開がその後も続き、ページをめくる手が止まらない。年齢とともに本を読むのが遅くなり、格段に読書量が減っている自分でも先が気になってあっという間に読んでしまった。 小説として、物語として抜群に楽しめることはもちろんだが、それだけでなく、本書は名言、金言のオンパレードでもある。 「年取ったらね、葬式代以外のお金は必要。絶対必要。それがあれば、老人はうわべだけでも一人前に扱われる」 「みじめな同居より、孤独死の方がずっと幸せ」 「世間にはさ、お金が第一ではないとか、お金で買えないものがたくさんあるとか、力一杯言う人いるけど、特に年取ったらお金が第一。世の中はお金で買えるものだらけ」 「高齢者は、動けるうちが勝負だって。これが老後の最大のポイントよ。動けるうちに満たされていれば、動けなくなっても思い出だけで生きていける」 「楽しみまくることが、長生きを願った親への孝行かもな」 読みながらうなずきが止まらないのだ。