気になる経緯と高まる期待。太田格之進のアメリカ/IMSA挑戦のカギを握るHRC USソルターズ社長インタビュー
昨年、アメリカのHPD(Honda Performance Development)が、HRC USに社名を変更して、日本のHRC(株式会社ホンダ・レーシング)は四輪モータースポーツ開発、運営をそれまで以上にグローバルに展開することとなったが、そのHRC USのデイビッド・ソルターズ社長が来日。昨年のスーパーフォーミュラ第5戦SUGOに続き、今季のスーパーGT第8戦もてぎに姿を見せた。先日、ホンダドライバーの太田格之進がHRC USとIMSAの公式テストに参加することが発表されたばかり。太田格之進への期待や今後の展開について聞いた。 【写真】スーパーフォーミュラでは最終2連戦で連勝を飾った太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING) ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ⎯⎯去年、スーパーフォーミュラのSUGOにも来場しましたね。今回、スーパーGTのもてぎにはどのような目的で訪問したのですか? 「スーパーGTに来るのは今回が初めてです。私たちはレース屋ですから、素晴らしいレーシングカーを見るのはいつも楽しみです。個人的な興味もありますし、新しいレーシングカーを見るのは勉強にもなるので大切なことだと思っています。またHRC USの代表として、コラボレートしているHRC Sakuraの仲間たちに会うという目的もありました。」 ⎯⎯先日、大きなトピックスとして、太田格之進がIMSAのテストにアキュラで参加することが発表されました。その経緯について教えて下さい。 「今回来日したもうひとつの目的が、まさにカク(太田格之進)と会うことでした。HRC Sakuraで社長の渡辺(康治)さんともいろいろなコラボレーションをしましょうと話をしました。同じホンダの人間として、ホンダらしく、常に挑戦する道を探し、さまざまなチャンスを作っていきましょうと一致し、良いディスカッションができました。今回のカクの件は、新たな挑戦の道を開き、協業している我々の社員にも新たなチャンスを作るというふたつの観点で、素晴らしい決定に至りました」 ⎯格之進選手のIMSAのテスト参加は、今後の日本のドライバーの可能性が広がることにもなりますし、ファンも楽しみにしていると思います。 「私も楽しみですよ!(笑)。私だけではなく、アメリカのレースファンにとっても嬉しいことだと思います」 ⎯⎯格之進選手はすでにシミュレーターでテストをして、実際のサーキットでもLMP2のマシンで走行したことが明らかになっています。 「そのとおりです。私もDILというシミュレーター、そしてサーキットのテストに同行しました。シミュレーターではAcura ARX-06というハイブリッドのレーシングカーに乗り、サーキットではLMP2のマシンで慣熟走行を行いました。彼は非常に速い、とても才能のあるドライバーですね。プロトタイプのマシンに慣れるための走行でしたが、彼にとってはとても簡単だったようで、まったく問題なかったですし、非常に素晴らしいドライバーだとわかりました」 ⎯⎯IMSAのテストに参加する格之進選手に期待することは、どんなことですか? 「今はテストをしている段階です。将来的にどうなるかは、今度のテストの結果次第になりますが、今のところは非常にポジティブな印象を受けています。私だけでなく、エンジニアや私たちのスタッフも彼のパフォーマンスには満足しています」 ⎯⎯格之進選手のオープンでユニークな性格もアメリカ向きな気がします。 「本当にそのとおり。とても明るく楽しい人です。しかも私よりも英語が上手い!カクに英語を教えてもらいたいくらいです。いや、本当にこれはジョークじゃないですよ!」 ⎯⎯そこまでの英語力だとは知りませんでした(笑)。次のIMSAの公式テストでは、格之進選手の細かなメニューなどはもう決まっているのですか? 「11月のデイトナに行ってもらいますが、そこで何をしてもらうかは今、精査をしているところです。ARX-06はとてもレベルの高いハイブリッドマシンです。実際のクルマに慣れること、そしてチーム、エンジニアやスタッフ、他のドライバーに慣れることが何よりも重要です。さらにIMSAのスポーツカーのレーススタイル、規則もそうですし、約60台と参戦台数が多いのでトラフィックへの対応などに慣れることが大切です。さまざまなクラスの混走となるので、そういう新しい経験をする機会を与えて、どうなるか見たいと思います」 ⎯⎯今季のシリーズについてですが、IMSAのタイトルはポルシェに奪われました。アキュラの敗因をどのように分析していますか? 「今季は悪くはなかったですが、決して素晴らしいとは言えないシーズンでした。(第3戦)セブリングでは歴史に残るような、初めての総合優勝ができて、それまで開発をしてきたスタッフの努力が報われるようなリザルトでした。マシンはとてもコンペティティブでしたし、全体的なパフォーマンスとしては満足していますが、来年に向けてはまだまだ細かい部分で改良できると思っています。耐久レースでは、とにかくミスをしないことが重要です。レース戦略という面でもまだまだ伸びしろがあると思っています」 ⎯⎯つまり、マシン自体のパフォーマンスとしては、チャンピオンのポルシェと比べてアキュラはそこまで負けているわけではない? 「そう思っています。シーズンが終わって、データを分析して比較しましたが、同じレベルにあると思っています。ただ、彼らは細かい戦術をきちんと実行できていたのだと思います。彼らの戦い方は本当に素晴らしかった。我々は常にライバルをリスペクトしています。来年は挽回したいですね」 ⎯⎯来季のアキュラのメイヤー・シャンク・レーシングは2台体制のうち、1台はHRC USのエンジニアリングチームで運営することを明らかにしています。その狙いはどのようなものですか? 「私たちはホンダですからね。常に挑戦をする文化です。レースで新しいチャレンジをしなければならないのです。93号車はワークスチームとして新たなチャレンジをします。レースエンジニアもパフォーマンスエンジニアもストラテジストも社内のビークルダイナミクス・グループから出しました。レースという最先端の究極の場所でベストを尽くして頑張ってほしいと思っています。マシンの開発はこれまでも社内で進めてきていましたが、今回はそれだけでなく、マシンを実際に運用するためのエンジニアも参加させます。人材育成も新たなチャレンジのひとつです」 ⎯⎯そのチャレンジに、日本のHRCからエンジニアが参加する予定はありますか? 「私たちはSakuraのスタッフともビークルダイナミクスの面で情報交換などの協力をし合っています。実際、Sakuraのビークルダイナミクスの責任者が(10月に開催されたIMSA)ロード・アトランタにも来てくれました。HRC USにも来てくれましたし、今週もSakuraでいろいろ話し合いました」 ⎯⎯2025年の第3、第4ドライバーの発表はまだされていません。太田格之進、他の日本人ドライバーが加わる可能性はありますか? 「さあ、どうでしょう(笑)」 ⎯⎯逆に、日本のスーパーフォーミュラ、スーパーGTに参加したいと思っているアメリカ人ドライバーはいますか? 「もちろん、いるでしょうね。特にスーパーフォーミュラは、マシンの性能も、競技としてのレベルも高いですからね。間違いなく世界的に大きな関心を集めているカテゴリーだと思います。スーパーGTのマシンも素晴らしい。特にGT500は独特です。個人的にもベストな1台、CIVIC TYPE R-GTという素敵なクルマも参戦していますし(笑)。今はまだ、具体的にアメリカから誰かが参戦するという話は聞いていませんが、スーパーフォーミュラもスーパーGTもアメリカのレース関係者はみんな注目しています」 ⎯⎯2025年に向けてのIMSAの体制発表はいつ頃になりそうですか? 「デイトナは来年の1月ですからね、1月より前に体制発表はすると思いますよ(笑)」 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 肝心な部分はうまくはぐらかされたものの、スーパーGTもてぎの現場では太田格之進とにこやかに談笑する姿も見られ、ドライバーとしての評価はリップサービスだけではないことが感じられた。佐藤琢磨、そしてアメリカ挑戦への憧れを公言する太田格之進のIMSA公式テスト参加がどのようなものになるか。琢磨に続いて、太田格之進が日本のファンに新しいモータースポーツの世界を切り開いてくれそうだ。 [オートスポーツweb 2024年11月14日]