胎児の命にかかわるリンゴ病 対策がこの10年〝停滞〟していた理由 なぜ検査を自費で?妊婦健診がカギに
かわいらしい名前のイメージとは裏腹に、妊婦が感染すると流産・死産の原因になる「リンゴ病」。ヒトパルボウイルスB19が原因ですが、流産・死産のリスクがあまり知られておらず、ワクチン開発なども進んでいません。対策が後手に回ってきた理由や、それを打破するために今、望まれることについて、リンゴ病に詳しい医師に話を聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎) 【画像】こんなに赤くなる 頬以外にも手足の注意すべきリンゴ病の発疹の様子 <プロフィール>山田秀人(やまだ ひでと)さん:産婦人科医。1984年北海道大学医学部卒業。元神戸大学産科婦人科学分野教授。現在は大阪大学微生物病研究所招聘教授、手稲渓仁会病院・不育症センター長。 【「本当は怖いリンゴ病」連載】※記事末の関連リンクから 本当は怖いリンゴ病 ワクチンないのに胎児に影響、流産・死産の原因 今後流行のおそれも、予防するには? 妊娠中に保育園でリンゴ病流行 終わり見えない「自宅保育」勧められ…「かかっておけばよかった」悲痛な声
感染数は多いのに知られていない
――厚生労働省研究班の主任研究長として、国内で初となる妊婦を対象にしたリンゴ病(ヒトパルボウイルスB19感染症・伝染性紅斑<こうはん>)についての大規模調査を実施し、2013年に発表しました。どんな調査でしたか? 山田さん:リンゴ病の流行があった2011年を対象とした全国調査を、2011~12年にかけて実施しました。全国2714の妊婦健診施設をアンケート方式で調査し、1990施設より回答が得られました(回収率74%)。回答施設での分娩数は合計78万8673で、2011年の総分娩数の75%を占めました。 先天性感染数(母体内で胎児に感染すること)は、パルボウイルスB19感染がもっとも多く、69人。サイトメガロウイルス34人、新生児ヘルペス8人、梅毒5人、風疹4人、トキソプラズマ1人でした。ただし、この結果では、風疹以外はそれぞれ予想される先天性感染数より診断症例が少なくなっています。 理由として、予防のための対策や検査・診断法がまだ普及していないため出生時に見逃されている、それぞれの病気とカウントされていない流産・死産も多かったと推察しています。 パルボウイルスB19については、69人のうち35人が流産、14人が死産、3人が中絶で、残り17人が出産(正常分娩)でした。そのため、約7割の49人が流産・死産を経験していることになります。 34人(49%)が母体にリンゴ病の症状がない不顕性感染で、37人(54%)は家族(うち94%は子ども)に症状がありました。また、58人(84%)に上の子どもがいたこともわかりました。 ――お母さんから胎児が感染することで、奇形や重篤な障害などを引き起こす感染症の総称であるTORCH(トーチ)症候群(T:トキソプラズマ、O:その他、R:風疹、C:サイトメガロウイルス、H:単純ヘルペス)がありますが、山田さんはここに、パルボウイルスB19を含めることを提唱されていますね。 調査結果からもわかるように、他の病気と比較しても、パルボウイルスB19の先天性感染は少なくありません。ですが、TORCHの「O(その他)」としてはB型肝炎ウイルス、コクサッキーウイルス、EBウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、梅毒などが挙がることがほとんどで、ヒトパルボウイルスB19が挙がることはまれです。 日本で1年間に出生する先天性感染のうち、パルボウイルスB19は通常10、流行年なら100で、後者の場合はTのトキソプラズマ(100~200)、Hの単純ヘルペス(100)と同等で、Rの風疹(0~5)、梅毒(20~50)よりも多くなっています。 リンゴ病の原因ウイルスであるパルボウイルスB19が流産・死産の原因になることが妊婦に広く知られていないだけでなく、医療者でもそのリスクをしっかり認識していない場合があるため、私は必ずTORCHとしてヒトパルボウイルスB19を紹介することにしています。