胎児の命にかかわるリンゴ病 対策がこの10年〝停滞〟していた理由 なぜ検査を自費で?妊婦健診がカギに
他の病気は保険適用、なぜ自費?
――今後、どのような点を改善していくべきだと考えますか。 ワクチンが開発されておらず、母体から胎児への感染を防ぐ方法も確立されていない以上、妊娠前に女性が免疫(抗体)の有無を把握しておくことが大事になります。抗体があれば、流行したとしても、ある程度は安心してお母さん自身や、上の子がいる場合はそのお子さんが生活することができるからです。 抗体がなければ、地域や上の子を通わせる保育施設でリンゴ病が発生したときに、自宅保育をするといった対策を自ら取ることもできます。 しかし現在、保険適用になる抗体検査は、妊婦に感染のおそれがある場合の、パルボウイルスB19のIgM抗体の検査だけです。IgMは直近の感染の有無がわかりますが、感染した直後や、感染して時間が経ったときには検出されません。 中長期的な免疫の有無がわかるのはIgG抗体の検査ですが、これは保険適用外、自費の検査になります。他のTORCHの病気など、感染症は一般的にIgG抗体の保険適用があるのに、パルボウイルスB19は対象ではないのです。 胎児の命にかかわる病気なので、IgG抗体の保険収載への議論を推進するべきです。現状では、自費の検査で「オプション」だと妊婦さんに捉えられてしまうこと、検査できる医療機関が少ないことなど、デメリットが大きいと感じています。 ――「妊婦が感染すると流産・死産の原因になる」ということが未だに知られていない現場については、どう変えていきますか。 2015年から神戸大学医学部産科婦人科学教室で、パルボウイルスB19についてのパンフレットを作成し、配布しています。 ▼『今、パルボウイルスB19によるリンゴ病(伝染性紅斑)が流行しています。』 https://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/pdf/pnf4.pdf 身近に妊婦さんがいる方や、妊娠を希望する方やそのパートナーの方に、ぜひ読んでいただきたいものです。 基本的にすべての妊婦さんが受ける妊婦健診の場で、パルボウイルスB19についての説明が不十分であることも、問題の一つです。他のTORCHの危険性が知られているのは、やはりこの妊婦健診で情報に接するから、という理由も大きいと思われます。 妊婦健診で保健指導に当たる医療者には、ぜひ、パルボウイルスB19についても啓発・教育をしていただき、医療全体として一丸となり、パルボウイルスB19の先天性感染を減らしたい、と願っています。