WAT'S GOIN' ON〔Vol. 10〕窮状にあえぐ青森ワッツを照らした北谷の采配 しかしプロ・バスケットボールはコートの内だけにあらず
常勝だけがプロスポーツチームの存在意義なのだろうか…既存のプロスポーツ観に逆らうようにBリーグ誕生以前から活動を続ける不思議なプロバスケットボールチーム《青森ワッツ》の魅力に迫る。台湾プロバスケットボールリーグの新竹ライオニアーズとのグローバルパートナーシップ締結など、アリーナに収まらない活動を開始した青森ワッツが地元青森にどのような波及効果をもたらし得るのか、また、いかにしてプロスポーツチームのあり方を刷新してゆくのか、その可能性を同チームの歴史とともにリポートする。〔全13回〕
「でも、青森に帰ってきたときとは、ちょっと状況も変わっていたんです」 下山がニヤリと言う。 「北谷さんは、もう子供も生まれてお父さんになっていて。でも、いろいろ周囲の人たちの話も聞きましてね。北谷さんの奥さんは学校の先生で、仕事は安定していらっしゃる。その上、彼のバスケットへの情熱にもとても理解があって、素晴らしいかただと。だから、もう勝負です」(下山) そして2017年の11月、1カ月以上にわたる下山のプロポーズが功を奏し、北谷は勤め先を辞め、青森スポーツクリエイションに入社した。 「最初は子供たち、ユースのチームで教えました。まったく手探りですね。私はずっとプレーヤーだったので、コーチの経験もなかったですし」(北谷) けれど、そのときは刻々と近づいていた。 北谷が入社した2017‐18シーズン、ヘッドコーチとしてチームを率いていたのは、3シーズン目となる佐藤信長。29勝31敗に終わった前シーズンの雪辱を期していたが、開幕戦から8連敗とワッツはまるで振るわなかった。「チームを改革するタイミングはもう、ここしかなかった」と、下山は言う。まだシーズン途中だった翌18年の2月26日、青森ワッツは佐藤信長を解任し、後任に北谷を据えたのである。 「もう、やるしかなかったですね。信長さんがいなくなると決まったわけですから。これまでブースターの立場から、ずっとワッツを見てきて、たしかに負けは込んできていましたが、信長さんが目指していた『全員バスケット』の方向性は間違っていないと思っていました」(北谷) そこで北谷は、選手たちひとりひとりと、まずはじっくり話し合うことにしたという。 「コーチの経験はありませんが、選手としての経験から、負けが込んでいるチームに必要なことのいくつかは分かります。信長さんはチーム内の連携を習熟させるために、スターティングメンバ―をほとんど固定していました。それで勝てれば良いのですが、私がヘッドコーチになったタイミングでは、まだ結果に繋がっていませんでした」(北谷) 選手たちのメンタルから手をつけた北谷は、ひとりひとりと話し合うだけでなく、スタメンをタイムシェアし、多くの選手に出場機会を与えることで、チーム全体のメンタルを整えることを目指したのだった。結局、このシーズンは18勝42敗で終えたが、「チームの雰囲気は良くなった」(下山)。