高プロ制が導く異次元の「労働者保護」外しの未来
安倍晋三内閣が今国会の最重要法案と位置づける「働き方改革」関連法案が今月内にも衆院本会議で採決される見通しです。この関連法案は今国会で成立する公算が高くなってきましたが、一体どんな内容でどんな課題があるのでしょうか。労働社会学が専門の和光大学教授、竹信三恵子氏に寄稿してもらいました。 【写真】“退社8分後に出勤”で考える過労社会の処方箋「インターバル休息」制度
◇ 「働き方改革」の中の「高度プロフェッショナル制度」が論議を呼んでいます。政府や企業側を中心とした「成果を出せば早く帰れる」「柔軟に働ける」といった言説に対し、過労死の遺族や労働側から「『働かせ放題』が可能になり過労死が激増する」といった懸念が高まっているからです。その中身を丹念に点検してみると、確かに、この制度の「異次元」ともいえる労働者保護外しの横顔が見えてきます。
残業代・休憩・休みがなくなる?
「高度プロフェッショナル制度(高プロ制)」とは、どんな制度なのでしょうか。 「働き方改革関連法案」などを見ると、正式名称は「特定高度専門業務・成果型労働制」。厚生労働省の省令で、高専門かつ高収入、と決められた労働者を対象に、「労働基準法第4章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定」は適用しない、とあります。つまり、厚労省が決めた一定の働き手について、雇う側が、残業代を支払う義務(労基法37条)、休憩(6時間労働を超える労働は45分、8時間を超えれば1時間)を与える義務(同34条)、週1回の休みを与える義務(同35条)などを免れることが出来る制度です。 労働時間規制は、19世紀の産業革命以来、生命と健康と生活時間を守るため、働く側が企業による働かせすぎに対する防壁として勝ち取ってきた労働者保護の原点と言われています。働き方の国際基準を決めているILO条約が、1号で「1日8時間」労働を掲げているのもそのためです。日本は労働時間の歯止めが緩い社会で、この1号さえも批准していません。こうした状況が、過労死を招いてきたと言われています。