「川」はどこからどこまで?水源は富士山山頂?定義が難しい川を、地形図から解説
◆「滝」の記号 段差を持った急流はしばしば「滝」と呼ばれるが、そもそも滝という言葉は水が激しく逆巻く(たぎつ)ところをそう呼んだもので、垂直に水が落ちるのは上代(じょうだい)では「垂水(たるみ)」と呼んで区別していた。 実際の滝と急流は境目が明確ではないが、地形図では「垂水」に近いものに記号を与えている。川の流れを遮る直角方向の線を引き、下流側の両岸に点を一つずつ配したものだ(下のイラスト左部を参照)。点は水しぶきをイメージしているという。 ただし、大規模な滝の場合は縮尺通りに描くと記号より実物が大きくなるので、点々はその規模に応じて多数置かれることになる。 「平成25年図式」では、滝として表現する対象は原則として落差が5メートル以上で、かつその領域の幅(普通は川幅)が図上0.8ミリ(2万5千分の1では20メートルに相当)以上のものを、水しぶき部分に「点列」を配した「滝(大)」の記号で示すと定めている。 落差はともかく面積が広い、たとえば「東洋のナイアガラ」などと呼ばれる大分県の原尻(はらじり)ノ滝、群馬県の吹割(ふきわれ)の滝などは点々が多く配されている。 反対に落差が巨大でも平面形が小さい華厳や那智のような垂直系の滝は「滝(小)」の記号で足りるから、記号の大小は滝の規模に比例しない。 前出の『地形図図式詳解』では、滝の記号について「瀑布ハ一条ノ三号線〔線の太さによる分類=引用者〕ニテ河川ヲ横断シテ水ノ落下スル稜線ヲ示シ、下流ノ側ニ於テ其線ニ沿ヒ若干ノ小点ヲ散布シテ泡沫ヲ擬スル」ものとし、さらに「瀑布ノ下流ニ於ケル水線ハ泡沫部ニ於テ参差(しんし)〔入り交じる〕シテ之ヲ止メ、波状ヲ為サシメテ躍流ノ景況ヲ現ハシ」と、滝が水煙を上げつつ滝壺に豪快に落ちる雰囲気を描写することを指示しており、現在よりずっとリアルだ。
◆「堰堤」と「水門」の記号 人工的に河川に段差が作られる場合もある。ダムよりはるかに数が多いのが堰堤(記号では「せき」)だ。 上水や農業用水に安定的に水を引き入れるための施設が主で、実線と破線を並行させた記号だが、破線は水に隠れているイメージなので必ず上流側に描かれる。 この記号は水の少ない砂防堰堤にも用いられるが、廃棄物処分場の堰堤のように河川と直接関係のないものは土堤の記号だ。 「水門」も主に河川に設けられるが、造船所のドックの入り口にも用いる。記号は細線の両端に黒丸を打って表現したものである。 史上たびたび津波に襲われた三陸海岸沿いには東日本大震災の前から立派な水門が設けられているが、実物に比べて記号が貧弱なのでちょっと違和感がある。大型水門はもう少し太線のゴツい記号にした方が実態に近いのではないかと感じるが、過度に安心させない深謀遠慮なのかもしれない。 ヨーロッパなどの水上交通では河川を船が上り下りするための施設である閘門(こうもん)が多く、専用の記号も決められているが、急流河川の多い日本には実例が少ないため水門の記号が流用されている。 珍しく東京に存在するのが小名木川(おなぎがわ)などに設けられた閘門で、東京のいわゆるゼロメートル地帯では市街地より運河の水位の方がかなり高いから、安全のためこの装置によって水面を市街地の標高に近づけている。 ※本稿は、『地図記号のひみつ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
今尾恵介