「加齢臭+繁殖期のオス」ジビエのビジネス化が難しいのは「美味しくない肉」があるから…解決策を発見した男性は「学校」をつくった
山末さんによると、ジビエには「おいしい個体」と「おいしくない個体」がある。家畜と違って去勢をしないため、繁殖期のオスは強いにおいが残りがちだ。加えて、年齢を重ねると加齢臭がする。 去勢され、生後半年ほどで出荷される家畜と違い、個体によって当たり外れがあることが、ジビエを商業利用する上で大きな障壁になっていた。 考え抜いた解決策は、山末さんの身近なところにあった。宇佐市にはサファリパーク「アフリカン・サファリ」がある。子どもが動物好きだったため、山末さんも毎週のように連れて行っていた。人間にとってはおいしくなくても、サファリの肉食動物たちは好んで食べる。サファリにとっては餌の費用を減らせるメリットもある。サファリ側に提案すると賛同を得られた。 「おいしくない個体」は、サファリだけでなく、のちに犬や猫のペットフードにも利用するようになった。ようやく商業化への道が見え始めた。 ▽約50人が研修終了
正しい知識を持ってジビエを扱えば、ビジネスとして成り立つ。そう考えた山末さんは、「ジビエ処理を教える学校を作りたい」と考えた。 こうして2023年5月に開所したアカデミーは、鉄骨2階建ての延べ床面積約310平方㍍。1階には剝皮室、内臓摘出室、カット室、加工室、梱包室、冷凍室があり、皮を剝ぐところから商品にするまでの一連の流れを学ぶことができる。研修期間は最長1年間。数日程度の短期間の受講も可能だ。受講者のニーズに合わせて狩猟の方法や食肉処理場の経営などの座学も受講することができる。 これまでに約50人が研修を受け、修了した。2024年は計80人程度を受け入れる予定。受講者は福岡県や群馬県など、県外からも多く参加している。食肉処理業に従事する経験者より、会社の経営者や脱サラを目指す人の方が多いという。 福岡県で建設会社を経営する中島真二さん(49)は、地元で田畑が荒らされている状況を知り、「自分に何かできないか」と考えて受講を決めたという。これまでは、カモの解体をしたことはある程度。ジビエは大きさに個体差があり、処理は力任せではなく繊細な作業が必要で難しいという。いずれは地元に処理場を建設し、獣害を減らしたいと考えている。
▽「どうしてかわいいシカを殺すの?」 山末さんがジビエの処理場をつくった際、子どもの同級生からこんなことを聞かれたという。 「どうしてかわいいシカを殺すの?」 この質問には「はっとさせられた」。農家から受けた相談を、改めて思い出したという。 農作物の獣害を減らすためには捕獲する必要があり、その命を無駄にせず、ジビエとして食べることが大切。その循環を定着させるため「美味しいジビエを広めたい」と語った。