台湾・台中の隠れた名所で観客魅了する京劇公演。華麗なる霧峰林家のホームシアター「大花庁」とは
台湾五大家族(名家)のひとつとして知られる台中市の霧峰林家の伝統的邸宅群を保存・公開している霧峰林家宮保第園区の舞台「大花庁」(中華様式戯楼)で11月2日、京劇「覇王別姫」の公演が行われ、薄暮と日没後の2回の公演を計約300人が観劇。壮麗な建築を背景にした伝統美の世界に酔いしれた。 【全画像をみる】台湾・台中の隠れた名所で観客魅了する京劇公演。華麗なる霧峰林家のホームシアター「大花庁」とは 霧峰林家は18世紀半ばに中国・福建省漳州から台湾に渡ってきた林石が始祖とされ、三代目の林甲寅の時代に霧峰に拠点を置いた。19世紀半ばには台湾中部の広大な田地を持ち、数千の兵を養って中国大陸で起きた太平天国の乱などの平定や、清仏戦争にも関わった武家として知られる一方で、樟脳の専売権を得て財をなした一族。 清朝統治時代の台湾中部では、米国籍のエコノミスト、リチャード・クー氏のルーツでもある鹿港(彰化県)辜家と並ぶ名家で、また北部の、女優・エッセイストの一青妙さん、歌手の一青窈さん姉妹のルーツである基隆(基隆市)顏家や、板橋(新北市)林家、さらに南部の高雄(高雄市)陳家と並び、台湾五大家族に数えられるなど権勢を誇った。 台湾文化協会総理で貴族院議員だった林献堂(1881~1956)らを輩出した日本統治時代を経て、戦後も彰化銀行を経営するなど金融界に強い影響力を持っており、19世紀後半以来の伝統を持つ台湾最大規模の伝統的中華様式の邸宅には、現在も林家一族が居住している。 この規模の邸宅群がほぼ完全に残っている例は珍しく、1985年に「国定古蹟」に指定されたものの、一般公開が本格化する前の1999年9月21日の台中大地震(921地震)で大半が損傷。その後林家の末裔の企業である林本堂股份有限公司と財団法人阿罩霧文化基金会が施設を管理運営し、台湾の中央当局や台中市政府の補助を得て被災した建物の修復を進めた。 シンボルともいえる林家のホームシアター「大花庁」の真下には音響を良くするための大甕も設置されており、2014年にようやく一般公開にこぎつけた後は、この「大花庁」が台湾の女性歌手・ダンサー、蔡依林(ジョリン・ツァイ)さんと安室奈美恵さんのコラボ「I'm Not Yours」のプロモーションビデオ撮影舞台にも選ばれたが、2020年以降のコロナ禍の影響で訪問客は激減。 台北から約1時間半程度の場所ながら、特に海外での知名度浸透の勢いは減速し、管理にあたる林家の末裔らは少しでも注目を集めようと「大花庁」での定期的な京劇や、台湾の伝統人形劇「布袋劇」などの公演を企画、開催し、内外にその魅力を発信してきた。 今回11月2日に行われた京劇の演目は、いかにも武家らしく、秦滅亡で紀元前202年に楚の項羽と漢の劉邦が覇権を争った「垓下の戦い」が題材の「覇王別姫」が選ばれた。 敗色濃い西楚覇王・項羽を剣舞で励まし、足手まといにならないよう最後は自決する悲劇のヒロイン・虞姫を、1995年に国防部が中心となって設立した国光劇団(その後伝統芸術センター所属)の女優、劉珈后さんが演じた。劉さんは日本の伝統芸能と京劇のコラボにも力を入れている。 今回の2回の公演は1、2階席ともに満員で、各座席のテーブルには台湾茶や菓子も用意され、ランタンの灯が揺れるなか、舞台上の熱のこもった演技を注視した台湾全土や国外からの計約300人の観客は、クライマックスの虞姫の剣舞などに大きな拍手を送っていた。 公演を初めて観たという地元・台中の女性グループは「建物の壮麗な雰囲気もマッチしていて素晴らしい舞台だった。また来たい」と話し、劉珈后さんらと記念撮影。 林本堂股份有限公司の總經理(社長)の林俊明氏も「台風の影響が懸念されたが今回も多くの観客を迎えることができて大変うれしい。これからも先祖から受けついだ伝統や文化の魅力を内外に発信したい」と話していた。
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