フォルクスワーゲンが目指す「ラブブランド」とはなにか、注目の新型車「ID.2all」が示すものとは?
扱いやすいサイズでいて、いっぽうで、大勢で乗れて荷物も積める。それこそ若いひとから家族、それにビジネスで使うひとにいたるまで、多くの層からVW車が重宝がられてきた理由だと、私は再認識した。ゴルフだってポロだってパサートだって、パッケージングのよさには感心するばかりではないか。 もちろん、デザイン面からみたインテリアの出来も、特筆もの。「できるだけ造型はシンプルに、ただし素材や色合いには凝って、をコンセプトにデザインしました」とは、インテリアデザインをまとめたダリウス・ワトラ氏の言葉だ。 必要な物理的スイッチを残しつつ、操作類はなるべく数を省いたのがダッシュボードのテーマ。ファブリックのようなよい感触の素材を張ったうえに、調光式アンビエントライトによって、全体的に落ち着いた品のよさが感じられる。
シートの造型も私がおおいに気に入った点。ジャスパー・モリスンがかつてカペリーニ社のために手がけた「PAD」チェアを連想させる、背中や座面のクッション部分だけが膨らんだシンプルで機能的で、そして美しい形状だ。 そうそう、と私は思った。すぐれたパッケージングと扱いやすいサイズ。それに、なんとなくディーター・ラムス時代のブラウンとの共通性を感じさせるいい意味での機能性。デザイン的には、これらがVWを構成している重要な要素である。ID.2allにはそれがあるようだ。 さらに、「ラブブランドにとって重要」とミント氏が言うのが「シークレットソース」なる要素。私たちの知っている日本語に置き換えると”遊び心”がふさわしいかもしれない。 「ここを見てください」。ミント氏に誘われるまま、ID.2allのコンセプトモデルの車内に入って、運転席に腰を落ち着けると、ミント氏はセンターコンソール上のダイヤルを操作。すると、私の眼の前の計器盤の表示が変わった。
当初は主要な情報のみの機能的な表示だったが、ミント氏のダイヤル操作に合わせて初代ビートルを思わせる速度計の表示に変わった。もう一回、ミント氏がダイヤルを回すと、つぎは初代ゴルフ・カブリオレを思わせるデザインになったのだった。アイコン的なVW車を連想させるものである 「これで決定というわけではないですが、このアイディアを私は気に入っています。デジタル技術はほかのシークレットソースにも使えるので、この先、モニターのサイズを含めて、もう少し検討を重ねていくつもりです」
ID.2allは、このさき煮詰められていき、25年後半に発表されて、欧州で26年から販売が開始されると、コペンハーゲンでの発表会で、本社の広報担当者は語っていた。価格は2万5000ユーロ以下とのことで、そこもフォルクスワーゲンの”よき伝統”を守ろうというのだろう。
文:小川フミオ 写真: Volkswagen AG