欧州「内憂外患」の年 成長の両翼の独仏が経済失速 トランプ関税が追い打ちか 土田陽介
2025年の欧州経済は停滞を余儀なくされるだろう。成長の両翼だったドイツとフランスの経済が不調に陥るとみられるためだ。両国とも24年末時点で次年度予算が成立しておらず、当面は暫定予算の執行で乗り切る見通しだ。 ドイツは24年12月16日にショルツ首相の信任投票が否決された。25年2月23日に総選挙が実施される見通しで、保革大連立内閣が成立する公算が大きい。フランスではマクロン大統領が24年12月13日、中道のバイル氏を新首相に任命した。少数内閣としての出発で、組閣に成功しても下院は左派・中道・右派の三つどもえとなり、不安定な政権運営が想定される。両国の財政運営の停滞が欧州経済の最大の重荷になりそうだ。 通商・産業政策面での最大のリスクは対米関係にある。25年1月20日に就任するトランプ米次期大統領は、米国第一主義の立場から、欧州連合(EU)と距離を置く可能性が高い。それ以上に貿易赤字を削減する観点から、特にドイツに対しては10~20%とされる関税(ベースライン関税)以上の輸入関税を課す展開も予想される。 いずれにせよ、バイデン政権で改善した欧米関係は再び緊張しそうだ。そのため、欧米が協力して進めた脱炭素化政策には揺り戻しが生じるだろう。トランプ氏は天然ガスの積極的な利用を主張し、再生可能エネルギーを重視するEUと対立している。EU内でも、再任されたフォンデアライエン欧州委員長の下で進められた環境対策への批判が高まっており、EUがリードしてきた脱炭素化は大きな曲がり角を迎える。 またトランプ氏の再登板で、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する欧州諸国は防衛費増額や駐留米軍の経費負担増を迫られそうだ。一方、EUは20年に生じた新型コロナショックを受けて悪化した財政の再建を進めようとしている。 財政再建と防衛関連支出の増大を両立させるためには、まず財政再建のペースを落とすという選択があるものの、そのための合意形成は容易でない。従って、EUは防衛関連支出以外の歳出を見直すか、増税するか、それともその両方を進めるか、という選択を迫られる。現実的には、防衛関連支出以外の歳出を可能な限り見直しつつ、増税することになるだろう。
◇ロシア侵攻への影響 トランプ次期大統領の誕生は、ロシアによるウクライナ侵攻にも大きな影響を与えそうだ。停戦に前向きなトランプ氏による仲介を受けて、収束に向けて動く可能性がある。トランプ氏だけでなく、共和党自体もウクライナ支援に慎重な姿勢で、仮に停戦したとしても復興支援のコストがEUに偏る恐れもある。そうなれば復興支援に伴う財政負担が急増し、EUを経済的にも政治的にも圧迫すると懸念される。 EUにとっては、二枚看板である独仏の失速に加え、関税などで圧力を加えるトランプ氏による内憂外患のスタートになりそうだ。 (土田陽介・三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部副主任研究員)