雇用保険改正でパートでも「週10時間以上」で雇用保険強制加入か。元公務員が「新しい雇用保険法」を徹底解説
雇用保険がなぜ改正されるのか
国が雇用保険法を定期的に改正している理由としては、主に以下の理由が考えられます。 1.働き方の多様化への対応 2.リスキリングによる労働者の転職支援 3.育休取得者の増加 雇用保険は、私たち労働者の雇用の安定や雇用機会の増大、労働者の福祉の増進など、雇用に関するさまざまな支援を補償する公的保険です。 しかし、時代に合わせた補償が受けられないと、加入する意義が見出せません。 雇用保険の改正で国がどのような社会のあり方を目指しているのか、あらためて考えてみましょう。 ●(1)働き方の多様化への対応 雇用保険の改正理由として、多様な働き方へ対応した補償内容を目指すことが考えられます。 現在は正社員として働くだけでなく、パートタイムで働いたり育休取得後に社会復帰したりとさまざまな働き方が生まれています。 なかには、休職してスキルアップを目指したり、一度他社やフリーランスを経験してから会社員として復帰したりする人もいるようです。 雇用保険には、そうした多様な働き方をする労働者を常に保護し、失業リスクを低減・分散する役割を果たさなければなりません。 働く機会が増えても十分な補償がなければ、失業時の生活は不安定になり、労働自体がリスキーな行為になってしまいます。 今回の改正による雇用保険の適用拡大で、より多くのパート労働者が雇用保険に加入することが予想されます。 国は雇用保険の適用拡大によって、多くの労働者に失業リスクに備えてもらい、安定した雇用を実現しようとしているのです。 ●(2)リスキリングによる労働者の転職支援 雇用保険の改正理由として「リスキリングによるキャリアアップ支援」も考えられます。なかでも注目されているのが、教育訓練です。 厚生労働省の「令和4年度能力開発基本調査」によれば、調査対象者2万581人のうち教育訓練を受講した人は、全体の33.3%にとどまりました。 一方、受講者の感想としては「役に立った」「どちらかというと役に立った」という肯定的な意見が93.5%を占めました。 教育訓練はまだ多くの人に知られておらず受講者は決して多くありません。 しかし、受講者の満足度の高さから、有用性は証明されているといえます。 マネジメント能力や課題解決スキル、高度な専門知識を養えば、個人の転職も含めたキャリアアップを実現できる可能性が高まります。 キャリアアップのきっかけとして労働者に教育訓練を活用してもらうため、国は教育訓練給付の拡充を考えたといえるでしょう。 ●(3)育休取得者の増加 育休取得者の増加による財源確保も、雇用保険の改正理由の一つでしょう。 近年、育休は男性の取得率が上昇しています。厚生労働省の「令和4年雇用均等基本調査」によれば、令和4年度の男性の育休取得率は17.13%で、前年から3.16ポイントの上昇。5年前と比較すると男性の育休取得率は約3倍程度まで増えており、より多くの人が育児と仕事の両立を目指そうとしています。 育休取得者が増えれば、育児休業給付の金額も増加します。現在、育児休業給付として支給されているものは、以下の2つです。 ・出生時育児休業給付金: 以下の場合に支給される。・雇用保険の被保険者である・子の出生日から8週間経過した日の翌日までに、4週間(28日)以内の期間を定めて、子を養育するための産後パパ育休(出生時育児休業)を取得する・就業日数などの諸要件を満たす ・育児休業給付金: 以下の場合に支給される。・雇用保険の被保険者である・1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得する・就業日数などの諸要件を満たす 育休取得をはじめとした諸要件を満たせば支給されるため、多くの人が給付を受けられる可能性があります。 しかし、支給対象者が増えれば、現在の水準のまま給付し続けるためには財源の確保が必須です。 よって、今回の雇用保険改正で国庫負担や保険料の引き上げ措置を行ったと考えられます。 保険料の引き上げは、ともすれば「ステルス増税」と揶揄されかねません。 しかし、今回の改正では保険料率を財政状況に応じて柔軟に決定することとしています。 また、国庫負担の割合が80分の1から8分の1と10倍になっているため、急激な保険料負担の増加は考えにくいものとなっています。