グランプリ作品はなぜ「米袋」に描かれたのか? 障害とアート 「HERALBONY Art Prize」が生んだ注目の異彩作家
「異彩」の国際性が広がるアワード
同じく審査員を務めた日比野克彦(東京藝術大学長)は、アメリカの作家エス・プロスキーの「Untitled」を特別賞に選んだ。作家として日本のみならず世界のアートシーンを牽引してきた日比野は、特別賞の選評で「こんな作品を私も作りたいと素直に思った。憧れる作品はどうして生まれてくるのだろうか? と作者に聞いてみたい」と、作者への「憧れ」を吐露している。 「ダンボールに直感的に切り込みを入れて、それをパズルみたいに合わせている。平面だけども厚みがある。実際作品を触ってみると、その厚みがやってくるんです。作者の事前情報は視覚障害というだけで、全盲なのか弱視なのかも分かりませんでしたが、作者にとって触覚が大事な感覚であることがダイレクトに伝わってきました。 色彩や空間の感覚って、「黄金比」などといわれるように万人に伝わる安定した法則があると思われがちだけど、不安定さは個性に直結した表現なんです。それは作家性よりも前にある、個性なんですね」(日比野) アワードが国際的な広がりを見せたことについて、日比野は「日本のエイブルアートやアール・ブリュットと、海外の作品とは違う部分がある」と語る。 「世界共通の手法がある一方で、制作背景の違い、文化の違いが作品に現れていると感じるところもあります。たとえば画材もその国や地域に特有の素材があって、表現も変わってくる。浅野さんの作品は米袋に描かれていて、まさに素材の多様性そのものですよね。丈夫で、身近にあって、筆圧を強くゴリゴリ描けるという背景があって、独自の世界が生まれたんでしょうね」 今後、受賞した作家たちの作品は、ヘラルボニーやアワード協賛企業とのコラボレーションを経て世界に展開され、その「異彩」を遺憾なく見せつけていくことだろう。浅野が求めてきた自由と評価も、その先でさらに大きなものになるはずだ。 「HERALBONY Art Prize 2024」特設サイト:https://artprize.heralbony.jp/
Forbes JAPAN 編集部