グランプリ作品はなぜ「米袋」に描かれたのか? 障害とアート 「HERALBONY Art Prize」が生んだ注目の異彩作家
彼女にしか見えない景色を表現するために
評価する側の目に「ヒョウカ」はどう映ったのか。 「評価されたい」という表現者のストレートな気持ちがタイトルに込められた点も高い評価を受けたというが、審査員を務めた黒澤浩美(金沢21世紀美術館チーフキュレーター)は「大きな可能性を感じさせる作品」と語る。 「およそ2000点の応募作品のなかで、米袋に描かれたのはもちろん浅野さんの作品だけで、その行為自体がアートの体現だと思います。彼女が表現したいゴール、彼女にしか見えない景色を表現する為に、米袋の皺を生かすなど、工夫が見られました。日常の中での気づきや、生きる中で感じたことが表現に昇華していて、見事でした」(黒澤) 黒澤は、アール・ブリュットを巡る状況が国内外ともに大きく変わってきているという。 「多様な人々の社会参画が促進される機運の高まりで、アートの世界でもいわゆるメインストリームに乗らなかったアーティストの活動に、光が当てられる場が増えています。 障害のある人々だけではなく、女性アーティスト、黒人アーティストなど、あらゆるマイノリティの表現を紹介し支援するという動きが世界的に拡大していて、アーティストたちも機運の追い風に乗るように、作品を世に出す意欲が高まっているのを実感します。 「HERALBONY Art Prize」についても、ヘラルボニーにとって初めての国際的なアワードということもあり、主催者側の大変な努力があったことはもちろんですが、国際的な社会参画意識の高まりがあったからこそ28カ国、総勢924名もの参加があったのだと思います」 審査の過程では、「ヒョウカ」以外にもグランプリに値する作品が10~15点あるという意見で審査員が一致し、急遽グランプリとは別に審査員それぞれの特別賞が設けられることになった。 黒澤が特別賞に選んだのはisousin(いそうしん)によるフォトモンタージュ作品、「落書き写真(タイル状の壁)」だった。スマートフォンで撮った公園の落書きを画像編集ソフトで加工し、さらに別の複数の写真を合成させた重層的な作品だ。そこでは作者が意図した加工だけではなく、偶然がもたらす効果も生かされて、不思議な造形が出現している。 「すべてを加工し尽くすことなく、『ここで止めよう』という判断やこれまで蓄積してきたデータを組み合わせるなど、センスを感じます。やりすぎない、これ以上は必要ないという果断が、非常に素晴らしいと思います。写真はいまや誰もがスマホで日常的に撮り、共有されている媒体ですが、isousinさんならではの視点と技術が補足されて、誰にも作れない世界が現れています」