北朝鮮・金政権三代それぞれの肩書は 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
2016年5月、36年ぶり開催となった北朝鮮の朝鮮労働党大会で金正恩第1書記が「党委員長」に就任したと報じられました。そこで北朝鮮建国以来、金日成、正日、正恩という三代の指導者の肩書きについて振り返ってみました。
●金日成国家主席
1948年、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が建国された際には首相へ就任しました。当時の憲法では首相が国家元首です。と同時に朝鮮労働党の中央委員会委員長にもなります。国家のトップが首相で元首。一党独裁の労働党トップが委員長で兼務した形となります。党の方は1966年から委員長から総書記へと変更しました。 国家元首は72年の憲法改正で首相を廃して国家主席とします。いずれも元首の肩書きが明白なので主に「金日成首相」「金日成主席」と日本では呼ばれてきました。軍トップの国防委員長も憲法改正の折に主席が兼任すると定められたので、金主席は国・党・軍すべてのリーダーです。 よく似ているのが現在の中国トップの呼称です。中国共産党党首は総書記。その地位にある習近平氏は2013年に全国人民代表大会(国会に相当)で国家主席に選ばれています。したがって習氏の肩書きはたいてい「国家主席」です。 ところで「書記」というと生徒会で議事録をつけていた人というイメージがあり、「何で偉いのか」という疑問もあるでしょう。どうやら邦訳の問題も大きく、共産主義政権のそれは「事務総長」といった意味合いのようです。同じ肩書きでも旧ソ連における共産党トップは「書記長」と紹介してきました。位置づけは総書記と変わりありません。
●金正日国防委員長
1994年、日成主席が死去。息子の金正日氏が97年に労働党総書記へ就任しました。ただし国家元首たる「国家主席」は、父を「永遠の国家主席」とみなして空位(廃止)とし、父が存命中から(93年より)任じられていた国防委員長の座を国家の「最高領導者」とする憲法改正を行いました。 つまり正日氏は国家では国防委員長、党では総書記というトップの座にあり、憲法改正の結果として国防委員長が元首級の肩書きとなりました。本人も対外的に用いています。 日本のマスコミの多くは、北朝鮮の憲法に「朝鮮労働党の指導の下にすべての活動を行う」とあるため、金正日総書記という記載が多かったのですが、元首としての実態を示すならば国防委員長の方がより適切といえそうです。 なお朝鮮人民軍には「最高司令官」という肩書きもあり日成氏も正日氏も名乗っていました。ただ「最高司令官」は法的な裏づけが存在しません。 北朝鮮には正規の立法府(国会)として最高人民会議があります。長らく金永南氏が常任委員長を果たしてきました。永南氏は党では序列2位ですが、この肩書きから外交の席などではしばしば元首的役割を務めています。 国防委員長が最高位になり、軍事をすべてに優先する「先軍政治」を打ち出したのも正日氏からです。