北朝鮮・金政権三代それぞれの肩書は 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
●金正恩委員長
正日氏が日成氏存命の頃から後継者とみなされてきたのに対して、3代目は誰なのか憶測の域を出ない状態が続きました。2010年、正日氏が「最高司令官」の立場で3男の正恩氏を軍の大将へと昇格させてから「どうやら次は正恩氏らしい」という観測が強まります。 11年、正日国防委員長が死去し、正恩氏が「最高司令官」へ就きます。そのまま父の党総書記、国家の国防委員長を名乗るかと思われたものの、正恩氏は父こそ「永遠の総書記」「永遠の国防委員長」であるとして継がず、空位(廃止)としました。代わりに党では第1書記に、国家では国防委員会第一委員長となりました。総書記と第一書記、国防委員長と国防委員会第一委員長の権限はほぼ同じと考えてよく、父の先軍政治も引き継いだ形となっています。 そして5月の「委員長」就任です。第一書記からの変更とみられます。党大会以前から祖父がかつて名乗った中央委員会委員長へ変更するのではないかという見方もありました。実際には「党委員長」でした。総書記にせよ第一書記にせよ、位置づけは中央委員会のリーダーなので「中央委員会委員長」の方がより正確なはず。単に「党委員長」だと何の委員長なのかハッキリしません。そのあたりの分析は今後の言動から少しずつ明らかになっていきそうです。体型や髪型、スタイルなど正恩氏は祖父を意識しているという指摘はかねがねあったので「委員長」の呼称復活もその一環という考え方が有力です。
正恩氏は他にも党の役職があります。中央委員会委員と、その上部にある中央委員会政局常務委員であるのは当然。また中央軍事委員会委員長も務めています。 多少大ざっぱにまとめると次のようになります (1)国のトップ 首相→国家主席(日成)→国防委員長(正日)→国防委員会第1委員長(正恩) (2)党のトップ 中央委員会委員長→総書記(日成)→総書記(正日)→第1書記→委員長(正恩) (3)軍のトップ 国防委員長(日成・正日)→国防委員会第1委員長(正恩) (4)立法府トップ 最高人民会議常任委員長(現在は金永南) もっとも北朝鮮は日成、正日、正恩の3代世襲による独裁体制以外の何ものでもないので、肩書きなどどうでもいいのかもしれません。しかし勘ぐれば彼らが何を重視しているのか推し量れもします。例えば正日氏が軍トップの国防委員長を国のトップへ重ね合わせたのは、彼の「先軍政治」の意欲を表しているとか、正恩氏が第一書記を委員長に変えたのは「第一書記」ではどうしても「総書記」の劣化版のように映るので、重々しい「委員長」にして権力基盤を強化したいと願っているかもしれない……といった具合です。
------------------------------------ ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】