空海のご縁、幸せ導く母と子のご神犬…月次祭で参拝者に姿
丹生都比売神社(和歌山県かつらぎ町)
約1200年前、弘法大師空海は真言密教の根本道場を開く地を探し、大和国で白と黒色の犬を連れた狩人に出会う。2匹に導かれた紀州の山中の社(やしろ)で女神から神領を授かった。女神は丹生都比売大神(にうつひめのおおかみ)。狩人は、その子の高野御子大神(たかのみこのおおかみ)だった――。高野山開創の伝承にある。 【画像】ご神犬を奉納した豊岡さん
丹生都比売神社は高野山麓の標高約450メートル、「天野の里」に立つ。凜(りん)と澄む境内に母子の紀州犬がいる。白い、すずひめ号(雌、7歳)、黒い大輝(たいき)号(雄、5歳)。神さまのお使いの「ご神犬」だ。
古くから人々を幸せに誘(いざな)うと大切にされ、権禰宜(ごんねぎ)の藤野唯史さん(48)は「山麓では白、黒色の犬は特別。神さまと狩りをしたなど様々な伝承が各地にあります」と言う。
空海が高野山で母子の祭神を祀(まつ)った御社(みやしろ)で白と黒の犬が常に飼われていたと、「紀伊続風土記」に記されている。 しかし神社には、いなかった。
日本犬保存会会員で、神社を手がける造園業の豊岡由行さん(49)(和歌山県橋本市)が「いたらいいなとずっと思っていた」と相談し、2017年、生後11か月のすずひめ号を奉納した。約20年前から紀州犬を飼育し、「ご神犬になるために生まれたような純白で、美しかった」と話す。
次は黒色の犬だ。豊岡さんは、すずひめ号のお相手にと珍しい黒い雄の紀州犬を探した。2年後、「お導きと思えた」と見つけ、大輝号が生まれた。すずひめ、大輝号が境内で参拝者に姿を見せるのは、主に毎月16日の月次祭(つきなみさい)で、10月16日の例祭と普段は一般公開していない。
神社は、キャラクターを公募し、紀州犬の双子の兄弟「しろまる」「くろまる」をPR。今年の世界文化遺産登録20周年を祝い、「ハローキティ」とコラボしたお守りも授与している。 母と子のご神犬。悠遠の時を超え、空海を導いた2匹が、今に重なる。藤野さんは「祭神も親子神。神さまとお大師さまのご縁でしょう」と思う。 そして、「ご神犬の伝統を復活し、高野山や神社を多くの人に知ってほしい」。そう、切に願っている。 新しい年へ。迎春準備が神社で進む。人々を幸多く輝く一年へと、ご神犬が導く。 文・丹下巨樹、写真・飯島啓太