「アベノミクスの源流を探る」(下)新自由主義政策を採った国々
減税打ち出した米レーガン政権
1981年、アメリカにレーガン政権が生まれた。「強いアメリカを取り戻す」ことを目的に、減税を行って経済を活性化させる新自由主義の政策を打ち出した。減税をすれば企業も国民も潤う。国民の消費が活発になり、国内需要が増加すれば企業の生産活動も活発化する。そうなれば減税額を上回る税の自然増収が得られて財政赤字は解消し、経済は成長すると考えられた。アベノミクスが大胆な金融緩和によって円安と株高を実現し、それが輸出企業を中心に大企業を潤し、その儲けが中小企業や労働者に及べば経済の好循環が生まれると考えるのに似て、レーガノミクスは減税が経済の好循環を創りだすと考えたのである。 ところが経済成長はするが税の増収が期待通りにいかない。予想を超えて財政赤字が膨らんでいく。一方でアメリカの国内需要が増加した事は日本の対米輸出を刺激した。アメリカは大幅な輸入超過となって貿易赤字も膨らむ。そして第一次世界大戦以来、外国に金を貸して利息を稼いできたアメリカが、ついに世界一の借金国に転落したのである。その時アメリカはすべての責任を日本に押し付けてきた。日本の貿易政策が集中豪雨的な輸出を企んでいると非難し始めた。ジャパンバッシングが始まり、特に1985年に日本が世界一の金貸し国になると円高と低金利を押し付けて日本経済をバブルに導いた。それがその後の「失われた10年」の遠因となる。 アベノミクスは株高を維持する事が至上命題である。その株を買っているのは主に外国人投資家である。外国人投資家に逃げられればアベノミクスはお終いだ。逃げられないためには目先の利益だけを求める経済政策を採用する事になる。嫌でも市場原理主義的にならざるを得ない。しかしそれが長い目で見て国民を幸福にする道なのか、世界の歴史を見てくると私ははなはだ疑問になる。
サマーズ米元財務長官の言葉
新自由主義は確かに一時的には経済を成長させる。しかしそれは継続しない。2、3年後には必ずひずみが出てくるのが世界の経験である。安倍総理がなぜ今選挙を急ぐのか。来年は戦後70周年で世界から日本の歴史認識が問われる事になり、また原発再稼働やTPP、普天間問題、それに集団的自衛権の法整備など難題が山積するためと見られているが、アベノミクスの賞味期限が切れ、思い通りの展開になる保証はどこにもないからだと私は考える。 アメリカのローレンス・サマーズ元財務長官は「アベノミクスが良いか悪いかは3年後に分かる」と2年前に述べていたが、だからその前に選挙をしてしまわないと足元が崩れると安倍総理は考えているのではないか。 (ジャーナリスト・田中良紹)