内科出身は初 日本癌治療学会・吉野理事長に聞く 学会の役割と目指すあり方
◇“奇跡のコラボレーション”でヘルスケア改革実現を
新薬の日本での承認に時間がかかるドラッグラグ、日本に入ってこないドラッグロスの問題は、がん領域でも増えています。たとえば、アメリカのベンチャー企業が新薬を開発しても、企業としての体力がないことに加え、日本の規制の厳しさなどもあって日本での展開を躊躇してしまいます。 ではどうするか。日本の資本で海外の製薬企業とのジョイントベンチャーを作って動かすことが必要だと考えています。今まで医師がやってきた領域とは違いますが、海外のスタートアップ企業と我々がコミュニケーションをとって投資会社とつなげる。それによって日本で薬の開発が行われ、日本の患者さんにも新薬が届く――実際にそうした動きも始まりつつあります。 我々は今まで、医療機器、製薬企業だけを見てきました。しかし、これまで考えたこともなかったような企業と組むことが、革命的な治療を生み出す原動力になるのではないでしょうか。“奇跡のコラボレーション”が日本の医療を変え、医療が日本経済を支える“医療創生”を起こし、それによってヘルスケア革命(治す医療から治し支える医療への転換)を実現したいと思っています。
◇がん治療の魅力
現在国民の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっており、この病気を克服できれば国民は幸福になります。そのためにはがんを予防する多角的な活動が必要です。それでもがんになってしまう人はいますから、患者さんに高い水準の医療を提供できる人がいなければ、「1人も取りこぼさない医療」は実現できません。ですから、まず第一にがん専門医が増えてほしいと願っています。 がんの治療は3~4年に一度、教科書がほとんど書き換えられ、「そんなことはあり得ない」と言われていたことがある日現実になるなど変化が非常に速くなっています。これまでとはまったく発想の異なる効き方の薬が新しく出たり、目の前の患者さんがよくなったりということを自分で体験できることが多い領域です。「明日死ぬかもしれない」と言われた人が、治療が奏効して「先生ありがとうございました」と元気に自宅に帰るのは素晴らしい経験ですし、医師としてのやりがいもあると思います。 がん治療の中で腫瘍外科、内科のなり手が少ないのは我々の努力不足もあるかもしれません。その反省もあって、医学生や高校生を対象に、若いうちから「がんの治療って素敵なんだ」ということを話す機会を作っていこうと思っています。もう1つ、若手にどんどん海外に行って生涯の記憶に残るような体験をしてもらう、といったことなどを通じてがん治療に興味を持つ人を増やし、自分が患者さんを診る立場になったら非常にやりがいのある仕事であることを実感してもらう。そのようなことを積み重ねていくことが、若手をこの領域に引き込むために必要だと思っています。 私は防衛医科大学校で災害医療を学び、初期研修を終えたときに内科に進むことを決めました。内科で一流になりたければ、がんか炎症を極めなければいけないと考え、たまたま知り合いが国立がん研究センターに移ったことで、自分もがんを極めようとがん治療の道に入りました。この領域は、奥が深くて終わりがない、実に魅力的な世界が広がっていました。とはいえ、私の理想は「いつか“終焉”が来る」ことです。学問としての終わりは同時にがんの患者さんが全員治る時代の到来であり、それは先ほどお話した「国民の幸福」の実現を意味するのです。
メディカルノート