内科出身は初 日本癌治療学会・吉野理事長に聞く 学会の役割と目指すあり方
◇誰も取り残さない医療環境構築を目指して
私の理事長としての任期は最大で4年あります。この間に▽会員2万人達成▽ジャーナルの国際的地位向上▽がんnaviと認定CRC(臨床研究コーディネーター)を倍増させる――などを通じて、誰も取り残さない医療環境構築に尽力したいと思っています。 若手が積極的に海外に行けるような制度の充実も重要です。最近若い先生が海外に行かないことが気になっています。海外の学会に参加する際、現地でもオンラインでも変わりがないと思っている先生が多いのですが、実はまったく違います。現地参加すると、発表した先生とじかに話をし、今何をしているか教えてもらえます。オンラインでは輝かしい発表をするのですが、それは完成した研究です。現地に行って完成までの苦労や、今どんな研究をしているかなどを聞くことで、5年後はどうなっているかといった未来を見ることができます。ただ発表を聞くだけでなく一流の人と触れ合ってほしいという思いから、より多くの人が海外に行けるよう支援計画を立てていこうと思っています。人材を人財とも書きます。人は財産です。人財の育成に全力をつぎ込み、国際人財にまで飛躍する若者の姿を夢見ています。 先に述べた学術誌IJCOは現在、インパクトファクター(学術雑誌の影響度を評価する指数)が2点台です。世界で“一流”と認められるには10点を超える必要があり、それに向けた方策も打っています。具体的には、25人の理事の先生に毎月1人ずつ、それぞれの得意分野で論文を執筆してもらい「JSCO Board of Directors Series」として掲載します。また、PMDA(医薬品医療機器総合機構)とコラボして新薬承認や副作用情報を英語で発信します。学会には製薬企業の人も会員として参加しているので、画期的な治療薬を出した企業の人に開発の過程などを書いていただき「インダストリービュー」というタイトルで掲載しようと、企業にアンケートをしているところです。 学術集会は現在、毎回6000~7000人が参加していますが、これを海外の人も増やしながら1万人ほどにしたいと思っています。海外からの演題も増えつつあり、今年は500を超えて国際的な色彩が強くなっています。 学術集会で重要な変更として、これまで禁止してきた録音、撮影を許可する方向にかじを切ることにしています。欧米の学会はすでに録音、撮影、SNSでの発信も許可しています。社会に自分たちの活動を広く発信する仕組みを取り入れて、医療従事者のものだった学会をよりパブリックにしていくという活動を目指していきます。