内科出身は初 日本癌治療学会・吉野理事長に聞く 学会の役割と目指すあり方
日本癌(がん)治療学会の第8代理事長に、吉野孝之・国立がん研究センター東病院副院長が就任した。初代から7人続いた外科出身者の後を受け、初めての内科出身理事長となる。組織の革新を望む声に押されたという吉野理事長に、学会の役割と目指すべき方向性、学問としてのがん治療の魅力などについて聞いた。
◇さまざまな職種が集う大きな学会
日本癌治療学会(JSCO)は1963年に設立された歴史ある団体です。2023年10月の学術集会で、第8代理事長に就任しました。 当学会は、約1万6300人(2023年7月)の医療従事者・研究者が集う大きな学会です。会員は医師がもっとも多いのですが、看護師や薬剤師など多様な職種の方がいます。全会員の中では外科医が約45%で一番多いのですが、内科や泌尿器科、産婦人科などさまざまな診療科にまたがって会員がいます。 前任の7人はいずれももっとも会員数が多い外科の先生でしたが、時代の流れで「内科の医師をトップにおき、組織の革新を望む」という声があり、そのなかで私が初めての内科出身理事長に就任することになりました。
◇多岐にわたる活動
学会としての活動も多岐にわたります。 学術集会は毎年10月ごろに開催し、2024年の会場は福岡市です。セクショナリズムを超えて毎回多くの人がそろい、横断的に「患者さんに対するベストの治療はなにか」という議論が展開されます。 海外の団体との関係構築も重要な取り組みです。カウンターパートとしてはアメリカのASCO(American Society of Clinical Oncology:アメリカ臨床腫瘍学会)と非常に強いコネクションがあります。ヨーロッパのESMO(European Society for Medical Oncology:欧州臨床腫瘍学会)とも関係があります。さらに、AOS(Asian Oncology Society:アジア腫瘍学会)は、岐阜大学の吉田和弘学長が理事長、私が副理事長の1人を務め、本部は当学会事務局の中にあります。このように欧米、アジアに開かれた学会になっています。 学会が学術団体であるという基本的なしるしは、きちんとした学術機関誌(ジャーナル)を持っていることです。当学会はInternational Journal of Clinical Oncology(IJCO)、International Cancer Conference Journal(ICCJ)という2つの機関誌を運用しています。 患者さんに近いところでは、PAL(Patient Advocate Leadership)があります。これは「患者さんとそのご家族を支援する活動の中心となる人」という意味で、そうした人材を育成する学会事業がPALプログラムです。▽がん患者・家族を支援する団体運営者または個人が、内外のがん医療に関する知識と最新の情報を得ていただく▽学術集会で得た知識や最新の情報をもとに、ご自身の活動地域や領域において、日本のがん医療やがん患者・家族の支援の質を向上させるための活動を行っていただく――の2つを目的に、2009年の第47回学術集会から継続して実施してきました。 さらに「がんnavi(認定がん医療ネットワークナビゲーター)制度」を通じてナビゲーターの育成を行っています。ナビゲーターの資格を得た人は、地域におけるがん診療情報や医療サービス情報などを収集し、がんの患者さんやその家族に適切に提供する役割を担います。国の「第4期がん対策推進基本計画」でも、患者さんと病院をつなぐ人の重要性について記載され、我々のがんnavi制度が評価されていると思っています。