「そのバイク、ジャンル不明!!」80年代前半の国産車は、謎バイクの宝庫だった
■ホンダ シルクロード(1981年3月発売)「夢多き大人たち向けに生まれたトレッキング・バイク」 オンオフ系モデルは、1970年以降各社で種類が豊富になったが、前輪23インチのホンダXL250S(1978年~)が特に林道ブームの立役者になった。そしてこのカテゴリーは需要の細分化がまだ可能と考えたのか、よりニッチなモデルを発売。 壮大なスケールの印象的な車名で、あえて採用したシングルシートの理由をカタログでは「リアに旅の小道具を積むための、いわば、男のキャパシティを確保するための配慮です」と記す。「男の道具。トレッキングバイク」の表現もあり、「男の~」がそこかしこで使われ時代を感じさせる。 車輪はオフ系で主流の21インチではなく、19インチ。積載性重視の仕様も含めて今のアドベンチャー系に通ずる面があるものの、1速より低いスーパーローギヤなど、同車のキャラクターを混迷させる装備も付く。 だが、そんな希少性も含めて愛好家がいたりもする。XL250S系の空冷4スト単気筒は最高出力20ps、価格は33万8000円。 ■ホンダ モトコンポ(1981年10月発売)「久びさに出た4輪収納系バイク」 1970年前後、ホンダはレジャーバイクのモンキーとダックスに前輪分離機構を採用。4輪のトランクに積める機能をアピールしたものの、そうしたニーズがさほど高くないことで長続きしなかった。 だがそれから約10年、ホンダはまた車載に特化したコンパクトモデルを開発。車名はモト(=モーターバイク)+コンポ(=コンパクトオーディオの通称)という合成造語。初代4輪シティのトランクにぴったり積めるという特殊なアピールで、ハンドルとシート、ステップを箱型ボディに収納できるのが特徴。 シティを買わなくても単体購入できるが、セット販売のイメージを抱かれてか販売台数は伸び悩んだ模様。2スト空冷単気筒搭載で、最高出力2.5ps、価格8万円。ほぼ同時期に、ハンドル折りたたみ機構を採用したタイプも設定された同種のミニスクーター・スカッシュ(8万8000円~)も発売された。 ■ホンダ ストリーム(1981年11月発売)「第3のクルマを標榜したスリーター」 流麗なフォルムを持つトランク付きのフロントボディ、スクーターのようなステップボードの後方には背もたれ付きのシート、そして独立したエンジン&駆動部は左右に小径ホイールの2輪。前=1輪、後=2輪のスクーターとしてスリーターの造語とともに登場した同車。 新しい乗り物の流れ=ストリームを目指す意図から生まれた新種で、エンジンハンガーのスイング部にナイトハルト(ゴムスプリングの捻じれによる復元力を持つ構造)機構を装備。前ボディが左右にバンクする新感覚の安定した乗り味をねらった。 ホンダは同構造のロードフォックス、ジョイ、ジャストなども発売したが、いずれも短命だった。空冷2スト単気筒49ccエンジンは最高出力3.8ps、価格19万8000円。なお、車名は2000年以降4輪のミニバンに使われ、そちらの知名度のほうが高いだろう。 ■ホンダ FT400/500(1982年6月発売)「フラットトラッカーとは? 時代を先取り過ぎたダートラ風レプリカ」 FTとは=フラットトラッカーの頭文字から取られたものだが、1980年代前半に、こう聞いてフラットな土路面のオーバルコースを周回するアメリカのレースを想像する日本のユーザーはなかなかいなかったはずだ。 同車がどんな意図で作られ、どんな受け入れられ方をしたか別記事にまとめたことがあるが、実際に同車はマニア受けした一方で、広く受け入れられずに一代限りで終了。 最高出力は27ps(FT400)/33ps(FT500)、当時価格は42万3000円(400)と42万8000円(500)だった。 その後、実質的な後継車として1986年にFTR(250cc)が発売されるが、FT400/500同様に火は着かず。ただし絶版となってしばらく、1990年代後半から2000年代前半にかけストリートカスタムのベース車として中古FTRの人気が高騰。その影響もあってFTR223が2002年に発売されダートトラッカーブームは小開花したものの、1カテゴリーに発展するほどには至らなかった。 ■ホンダ モトラ(1982年6月発売)「高い登坂力やタフな積載力は、誰のため?」 モーターサイクルにトラックのような無骨さと積載性を盛り込んだ造語を車名に、突如市場にリリースされた印象の強い50ccレジャーモデル。特殊なバックボーンフレームに搭載されたスーパーカブ系の4スト単気筒エコノパワーエンジン(49cc)は、通常の3段に低速3段のサブミッションを装備。荷物を積載しつつ約23度の勾配を登れる力をアピールした。 ボディ前後に荷物を安定して積めるパイプ製の大型キャリアを装備し、積載時にも安定した走行性を誇ったものの、高性能でレーシーなモデルがもてはやされた時代の中で、そのアピールは響かなかったが、今ならその希少な面白さに注目する向きは存在するかも。最高出力4.5ps、価格16万5000円。