ユネスコ無形文化遺産になった日本の「伝統的酒造り」:世界中を酔わせるための課題とは
国内の伝統的な酒の生産量は大幅に減少
日本国内の酒を取り巻く状況を見ると、少子高齢化や人口減少といった人口動態の変化、消費者の低価格志向、ライフスタイルの変化や嗜好の多様化などにより、酒市場は全体として縮小傾向にある。特に日本酒や焼酎、泡盛などの伝統的な酒は、ビールやウイスキー、リキュールなどのいわゆる新ジャンルアルコール飲料の拡大により、消費者の選択肢が増え、伝統的な酒の生産量は大幅に減少している。例えば日本酒は、生産のピークだった1973年に比べ、現在の生産量は3割以下に落ち込み、国内市場が大きく縮小している。さらに日本酒の生産量を種類別に見ると、普通酒は減少傾向にある一方で、純米酒や純米吟醸酒など高付加価値の商品の需要が高まっている。
和食ブーム背景に輸出は好調
他方で日本産酒類の輸出は、日本酒やウイスキーなど日本産酒類の国際的な評価の高まりを背景に、年々増加している。輸出額を品目別に見ると、ウイスキーが最も多く、次いで清酒、リキュール、ビール、ジン・ウオッカ、焼酎、ワインと続いている。輸出額が上位の国・地域は、中国が322億円、次いで米国237億円、韓国143億円となっている(国税庁「酒のしおり2024年6月」)。 伝統的な酒の中で、日本酒の輸出はウイスキーに次ぐ輸出額第2位と好調で、2013年に約100億円だったが、2023年には4倍の約400億円にまで拡大している。この背景には、2013年12月に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことが一因にある。農林水産省の推計によると、海外の日本食レストランは、2006年には約2万4000店だったのが、15年には約8万9000店、23年には18万7000店にまで増加している。「和食」のユネスコ無形文化遺産への登録により、海外から和食が注目され、日本食レストランが世界中で増加したのである。これに合わせて日本酒の輸出も伸びたことを考えると、「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産への登録で、日本の伝統的な麹菌によるアルコール発酵技術がこれまで以上に注目され、海外での日本酒をはじめとする伝統的なアルコール飲料の消費拡大が期待される。