キング・森岡薫、現役引退宣言して挑む“ラストチャレンジ”【STAR is BACK|Fリーグ】
3月31日、1日ズレていればエイプリルフールを疑いかねない衝撃のリリースが、ペスカドーラ町田から発表された。 「森岡薫選手新加入のお知らせ」 現役引退を考えていた矢先だった。ただ、Fリーグのファイナルシーズンを観戦した際に、自分の中で「消えかかっていた炎がもう一度燃え始めた」。 名古屋オーシャンズのエースとして、Fリーグ9連覇、4回の最優秀選手賞、4回の得点王。文字通りフットサル界のキングだ。 現在45歳。かつての輝きをピッチで示すことは簡単ではない。「無謀な挑戦」という見方もあるだろう。だが、森岡の表情には1点の曇りもない。 「今、俺、フットサルがめちゃくちゃ楽しい」 “キング”はなぜ、F1に戻ってきたのか。なぜ、町田なのか。そして「最後のチャレンジ」の意味とはなにか。 2013年に「森岡薫自伝 生まれ変わる力」を共著した盟友・北健一郎がその胸中に迫った。 取材=北健一郎 編集=田中達郎、青木ひかる ※取材は5月27日に実施
消えかかっていた炎が、もう一度燃え始めた
──率直に聞きます、なぜペスカドーラ町田に戻ってきたのでしょうか。 実を言うと、町田に戻ってくる話をもらったのは「選手として」ではなく「フロントとして」でした。 ──昨シーズン限りで現役を引退することを見越しての話だった。 はい。町田は育成を大事にするチームで、トップで活躍している選手たちは他のチームからの移籍よりも、育成組織から上がってきた選手がメインになっています。 そのスタンスを大きくは変えずに、もっとチームを強化できないかと。スペイン語とポルトガル語も話せる自分だからできることもあるはず。 いずれ日本一、アジアナンバーワン、そして世界で誇れるようなチームをつくりたいという思いがずっとあったので、本当に良いタイミングだったと思います。 ──森岡選手としても次のステップに行こうと思っていたわけですね。 自分の中でフットサルへの情熱が冷め始めてきていたのも事実なんです。町田を辞めたあと、スペインに行って、立川(アスレティックFC)を経て、(リガーレヴィア)葛飾がF2参戦する初年度に加わりました。 やるからには結果を出したいし、なんとかF1に昇格させられるように貢献したい気持ちはもちろんありました。だけど、F2は試合数も少ないですし、練習回数も葛飾の場合は週3回で、今までとは環境が大きく違いました。 そのなかで、自分の子どもの試合を見に行ったり、家族との時間をつくったりすることを優先するようになりました。失った時間を取り戻すというか……。こんな話をしたら、ずっと応援してくださっていた葛飾の方々に申し訳ないですが。 あぁ、自分はもう選手としては終わるんだなって。引退する選手って、こんな気持ちになるんだなって。そんなふうに考えていたんです。 ──そこから「選手として」復帰することになったのは、なぜなんでしょうか? きっかけは、ファイナルシーズンの町田ラウンドを見に行ったことでした。自分がいないF1の試合を見る気にはなれなくて、数年ぶりに現地に足を運んだんです。その時は町田が今どうなっているのかを確認するつもりでした。 でもね、久々にF1の試合を見ながら、思っちゃったんですよ。「ここでもう1回やったら、どうなるんだろう」って。自分はまだやれるとか、F1で通用するとか、そんな自信があったわけじゃない。でも、消えかかっていた炎がもう一度燃え始めた感覚でした。 その気持ちを、シュウさん(甲斐修侍監督)、社長の関野(淳太)さん、フロントの増山(竜平)さんに話したんです。 ──現場の指揮を取る甲斐監督とは、具体的にどんな話をしたんですか? 「シュウさん、俺が町田を出た時、現役最後のチームが町田になったらいいなって話をしたの覚えていますか?」と僕が聞いたら、「覚えてるよ」と。 ──森岡選手が町田を退団したのは2020年末のことです。それから4年経っていて、年齢も4つ重ねています。 はい、甲斐さんからは選手としてやるなら特別扱いはしないし、やるからには、ちょっとやってすぐ辞めますではなく、ちゃんと最後までやりきらないとダメだという話をされました。町田の選手はみんな若いし、よく走るし、強度も高いから、そう簡単にいかないだろうし、試合に出れないことも続くかもしれない。 でも、自分が求めていたのは、そういうシビアな環境でもあった。他の選手と競い合って、自分の実力を示して、プレーする時間を勝ち取って、チームの勝利に貢献する。ベンチやメンバー外になることも覚悟の上で1年間やらせてほしいと伝えました。 ──正真正銘のラストシーズンになる。 自分のフットサル人生はずっとチャレンジの連続だった。20歳を過ぎてから本格的に始めて、名古屋オーシャンズでプロになって、日本人になって日本代表としてW杯に行って、40歳でスペイン1部リーグに挑戦して……。 僕は、これがフットサル選手・森岡薫としての「最後のチャレンジ」だと思っています。