ザックJ、柿谷のゴールの裏にあるもの
ザッケローニ監督が「個の力を見極めたい」と語ったとき、懸念されたのは、アピール合戦になってしまうのではないか、ということだった。 即席チームのため、コンビネーションは期待できない。監督は「個の能力を見る」と言っている。となれば、選手一人ひとりが個人技に走り、アピール合戦となってしまってもおかしくなかった。 ところが、中国戦ではスタイルを実践しながら、互いのイメージを必死に摺り合わせようとする選手たちの姿があった。そして、イメージは試合中にシンクロしていった。前半はワンタッチでボールを動かしたものの、少しずつズレていたパス交換が、後半に入って次第に合うようになる。 「どういうプレーをしてほしい、というのを話しながらプレーしていた。最初は合わなかったけど、時間が経つにつれて互いのやりたいことが理解できたから、前半の途中から攻撃がうまくいったんだと思います」と振り返った高萩は、さらに続けた。 「次第に余裕が生まれて、ワンテンポ遅らせたり、時間を作るようなプレーもできるようになった。それで、みんなが動き出せるようになったと思います」 一方、裏に飛び出す得意の形からゴールを奪った柿谷も、「ハーフタイムにパサーの選手に、動き出しを見てくれ、って伝えていた」うえで、自身も「工藤が持ったときにはしっかり収めて裏に出してあげたり、元気にはしっかり足元に出してあげたり、そういうのを整理しながらやっていた」と明かした。 もちろん、後半に入って中国の動きが緩慢になった点を考慮する必要もあるだろう。オーストラリアや韓国のDF相手に、同じように崩せる保証はない。 ただし、指揮官のスタイルを実践したうえで、前半の途中から後半に掛けてコンビネーションを修正し、互いの良さを引き出せたのは収穫で、「前線の選手たちの能力の高さは証明できたと思いますし、普段一緒にプレーしていないのに、すごく良いコンビネーションを見せられた。攻撃では怖さのある動きができたと思います」という槙野の言葉にも、頷けた。 もっとも、自信や手応えを掴んだはずの攻撃陣に対して、2点のリードを守れなかった守備陣には、ほろ苦いゲームになった。3失点目のマークミスは頂けなかったが、1失点目、2失点目のPKは不運でもあった。 柿谷は、こうした試練を乗り越えてこそ本物だと力を込めた。 「アジアではPKを取られることもある。でも、これを乗り越えて優勝してこそ本物だと思う。今日は良いところもあったけど、悪いところもあった。それを修正して、優勝カップを掲げたい」 発足から3年間、固定されてきたザックジャパンのレギュラーメンバーに食い込むのは簡単なことではない。今大会でチームを自らのゴールで優勝に導いてこそ、ザッケローニ監督に上積みをもたらす戦力として認められることになる――。おそらく柿谷は、そのことに気付いているはずだ。 (文責・飯尾篤史/サッカーライター)