米警官による黒人暴行事件 「息ができない」アメリカの人種と犯罪の現在 上智大学教授・前嶋和弘
アフリカ系アメリカ人(黒人)に対する警察の取り締まり手法をめぐる抗議デモが現在、全米規模に広がっています。特に、注目を集めたミズーリ州ファーガソン市とニューヨーク市の2つの事件では、いずれの大陪審も、アフリカ系男性を死亡させた白人警察官に対して不起訴処分という「門前払い」を決めたこともあって、不満が一気に爆発する形になっています。デモの背景には人種をめぐる複雑な意識というアメリカが抱えてきた長年の問題があります。アメリカにおける人種と犯罪の現在はどうなっているのでしょうか。
NYとファーガソンの事件の共通性
この2つの事件はいずれも違法行為を犯した可能性がある丸腰のアフリカ系男性が白人警官に殺され、さらにいずれも「起訴する合理的な理由がない」という理由で不起訴処分になっており、共通性があります。 2つのうち、ミズーリ州ファーガソンの事件は8月9日、マイケル・ブラウンさん(当時18)が、コンビニエンスストアから自宅に帰る途中、言い合いになった白人警官に射殺されたものです。ブラウンさんに「パトカーに押し込められ、暴行を受け」「拳銃を奪われそうになった」「正当防衛だ」というのが警察側の主張ですが、少年は両手を上げていたとの反対の目撃証言もありました。 事件直後から「人種差別」として怒ったアフリカ系を中心にした抗議運動が発生しました。同州では非常事態が宣言され、運動が暴徒化する中、州兵が出動して鎮圧に当たりました。約10日間続いた抗議デモは沈静化していましたが、11月24日の大陪審の不起訴決定で、デモが全米に飛び火しています。 ニューヨークの方は7月17日、同市スタテン島の路上でたばこを不法に販売していたとされる、エリック・ガーナーさん(当時43)は、複数の警官に拘束され、その際に首を絞められ窒息死した事件です。ファーガソンの事件では防犯ビデオの映像のような確たる証拠がなかったのに対して、ニューヨークの方は制圧の一部始終が通行人によって撮影されていました。ガーナーさんは体重160キロを超す大男でしたが、警官が次々にとびかかり、倒れる中、背後から首を絞められ、もがきつづけます。「息ができない(I can’t breathe)」と11回訴えた最後の言葉も訴える声も録音されていました。映像が動画サイトにアップロードされ、アメリカだけでなく、世界中でリンチのようなこの様子が視聴され続けています。 白人が寄ってたかってアフリカ系の男性を制圧する映像は、速度違反を逃れるカーチェースの後、車から引きずり出され、4人の白人警官に警棒で執拗に殴り続けたられた様子が映像で撮られた、1991年3月のロドニー・キング事件を彷彿とさせます。キング事件では警官らは過剰な暴力を振るったとして起訴されましたが、裁判の結果、翌92年4月に無罪となり、これをきっかけにロサンゼルス暴動が発生しました。今回のガーナーさんの事件ではそもそも不起訴です。 ファーガソンに比べて、ニューヨークでは人種間の融合が進んでいることもあって事件直後の抗議運動は大きくはなかったのですが、12月3日に不起訴となって以来、ファーガソン事件での不起訴決定以上に全米に抗議運動の輪が広がっています。